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「―――ん?」 部屋の掃除をしていると、テープルの上に無造作に積まれた本が 放置されている事に気付く。 明らかに自分のものではないそれに、 庵は呆れたような溜め息を洩らすと、掃除もそこそこに コートを羽織る為自室へと歩いて行く。 休み時間らしく、校内には人が溢れており、 突然教室に現れた男に、生徒の好奇の視線が注がれる。 赤い髪という事もあってただでさえ目立つのに、 背も高く容姿も端麗とくれば、 生徒でなくとも目を奪われるのは確かなのだが。 それらの視線を鬱陶しそうな面持ちで無視し、 教室にいるであろう目的人物を探す。 ーが、見当たらないので近くの生徒を呼び止める。 「草薙京はいるか」 「―――庵さん!?」 シンと静まり返った教室に驚きを含んだ声が上がり、 ガタン、と椅子が倒れそうな勢いで立ち上がる生徒。 確か、京の友人のユキという少女だと、 まるで興味がない対象ながらも、京に関する事は覚えている自分に 心の中で苦笑する。 そのまま驚きの表情を隠さず、 また自分を知りながらも恐れる事なく近付く少女に、 度胸の据わった女だと、無表情ながら感心する。 「ビックリした、どうして庵さんがここに?」 「…アイツが忘れ物をしたのでな、届けに来た」 「教科書…」 「渡しておいてくれ」 面倒臭そうに言ってユキに手渡そうとするが、 ユキは待ってと言うように手でそれを制してくる。 「京は『授業がカッタルい』って言って… 多分屋上にいると思うの。 良かったら…直接行って渡してくれないかな?」 「何を…」 『その方が京も喜ぶでしょ?』 嫌そうに眉を潜める庵を見上げて、 ニッコリと微笑みながら唇を動かすだけで、 音にしない言葉で庵に言う。 庵が唇の動きだけで言葉を読み取れるとわかっている 彼女だけに出来る芸当であり、 周囲への配慮を怠らない彼女らしい優しさといえよう。 「………わかった」 笑顔を崩さない彼女に根負けしたように、 深い溜め息混じりに了承する。 ―この少女には勝てないな、と思いながら。 「―あ、ちょっと待って庵さん!!」 「何だ」 仕方なく屋上へ向かおうとすると、 再びユキがそれを引き止める。 「ついでで悪いんだけど…… 京に授業も補習もちゃんと受けるように 庵さんから言ってくれないかなぁ? 私が言ってもい〜っつも右から左で全然聞いてくれないし。 庵さんならちゃんと聞くと思うの。 だからお願い!!」 両手を合わせてお願いするユキに少し考えたようだが、 負けたついでだと思いながら、 ユキの頭にポンと手を置いて了承を示す。 「有難う!!」 ニッコリ微笑んで喜ぶ少女から離れ、 屋上に続く階段へ向かう。 京も紅丸も、彼女に頭が上がらないと言う理由が、 よくわかったと思いつつ、 [十戒]のように2つに別れる人の波を歩いて行く。 階段へと消えた庵を見送って、姿が消えるのを確認すると、 ニコニコと嬉しそうに微笑んだまま教室に戻ろうと踵を返す。 すると周囲にジロジロと見られていた事に気付く。 「な、何?」 驚いたようにキョロキョロと周囲を見回すと、 男女を問わずクラスメイトがワッと集まって来る。 「ねえねえ、今のカッコイイ人、誰!?」 「あの人、草薙さんとどんな関係!?」 「ホストみたいだけど、何してる人!?」 「今の人、ユキの恋人!?」 「あの人と友達なの!?」 「今の格闘家の八神庵だろ!?どういう関係なんだよ!!」 「お前知り合いなの!?サインもらってくれよ!!」 「草薙といい八神といい、お前羨ましいな〜!!」 などなど、大勢から聞き取れない程の質問を浴びせられる。 しばらく周囲は騒然となり、休み時間が終わっても収まる事はなく、 授業中もコソコソコと質問責めに合うのだった。 「イイ天気だなぁ〜……」 冬とはいえ、風のない日中は陽射しが暖かく、 静かで邪魔もほとんど入らない。 屋上は京の絶好のエスケープスポットだった。 ゴロリと寝転びながら、行儀悪くタバコをふかす。 プカリとふかした煙が、雲ひとつない空に吸い込まれて行く。 「空に落ちていくみたいだよなぁ……」 空以外に何も見えないこの場所は、 飛んで行けそうな錯角にさえ襲われる。 「さすが詩人だな」 投げ掛けられた声の方向に顔を向けると、 扉に見知った、しかしこの場所―学校の屋上―には いるはずのない人物が立っている。 「いっ、庵!?なな何でお前がここにいんの!?」 驚きの余り、思わず裏返った声で叫びながらガバリと起き上がると、 近付いて来た庵に何かで顔をペシッと叩かれる。 「お前が俺の家に忘れ物をしたから届けに来た」 「あ………そういえば」 渡された教科書を受け取りながら、 はたかれて赤くなった鼻をさする。 「ユキにでも渡しておいてくれりゃ良かったのに」 「そうするつもりだったんだが…………… 『京に直接渡した方が喜ぶ』と言われてな」 「………ぅぐ」 苦笑する庵の言葉に、京は鼻だけでなく頬も赤く染めながら、 横に座る庵が面白そうに口の端を歪めているのを見て 抗議するように軽く肩を殴る。 「―でもさ、お前が忘れもん届けに来てくれるなんて、 どういう風の吹き回しだよ?」 同じようにタバコをふかし始めた庵を見ながら、 怪訝そうな表情で京が尋ねる。 「まあ…気紛れというやつだ」 「何だそれ」 「喜んでもらえたか?」 「…………………」 何も言えず赤くなって頷くしかない京のリアクションに、 満足そうにニヤリと笑いが返って来る。 悔しげな視線を送りながら、改めて庵を見る。 銘柄は違うものの、自分と同じようにタバコを吸っている姿が、 どうしてこうもサマになるのだろうか。 しかもただのグレーのセーターと黒のハイネック、 下は黒の皮パンツで黒いロングコートを羽織っている どこから見ても普通の格好なのに、 何故こんなにカッコ良く見えるのか。 違う意味での悔しさも感じつつ見愡れていると、 庵と視線がバッチリと合ってしまう。 「……が、ガッコの奴等にジロジロ見られてたんじゃねェの?」 今まで考えていた事を悟られまいと 視線を逸らしながら笑い混じりにそう言うと、 横でむう、と言いながら眉に皺が寄る。 「ああ……鬱陶しい程集まって来た」 「やっぱり、お前目立つもんな〜、見れば良かったぜ。 今頃大騒ぎなんだろうな〜」 ケラケラと笑う京に、呆れたような溜め息が返って来る。 そこでふと何かを思い出したらしい庵が、 タバコを手に持ち、自らの焔で塵に変える。 「そういえばお前、授業も補習もサポっているようだな」 「ぅぐ……ユキだな、バラすなよ…」 痛い所を突かれ、苦虫を噛み潰したような顔で 横を向いてブツブツと呟いている。 「……卒業する気はないのか?」 「いや、そうじゃねェけど…」 真剣な表情で尋ねる庵に、困ったような表情を浮かべる。 それをじっと見ていた庵が、何を思い付いたか 突然京のタバコを奪い、焔で燃やし尽くしてしまう。 それに抗議しようと動いたところで手首を掴まれ、 ゆるやかに押し倒されてしまう。 「なっ……何すっ」 「静かにしろ」 驚いて抜け出そうともがいていると、 ゆっくりと上に覆い被さって来て、 更に庵の顔が近付き、唇を奪われる。 感触を楽しんでいるのか、啄むように 何度も角度を変えて唇を吸われる。 「ちょっ……ここをどこだと思って………っ」 グイグイとコートを引っ張って抗議すると、 満足したのか唇を離し、寝転んだ京をそのままに 脇腹辺りに座り込んで、京を見下ろす。 「何がしたいんだよ、お前…」 赤い顔のまま口元を拭いながら睨む京に ニヤリと笑いながら、ポケットから何かを出して来る。 握り拳のまま京の目の前まで持って来て、 掌を開くと、何かがぶらりと揺れる。 「………鍵?」 「誕生日プレゼントにやろうと思ったんだがな、 先程のキスをそれにしてやる」 「バッ………それより何だよこれ」 先程の行為を思い出して耳まで赤くなるのを誤魔化すように、 目の前にぶら下がるものを指差す。 「俺の部屋の合鍵だ、欲しいと言っていただろう?」 「!?」 京が思わず起き上がり、それを奪い取ろうとするのを、 庵は寸前のところで握り込んでそれを防ぐ。 「俺がタダでやると思うか? 提示する条件をのむならこれをやる。」 「う……何だよ」 悔しそうに空を掴んだ手を開閉させながら、 庵を拳をジロリと見る。 「条件は1つ。 授業と補習をちゃんと受けろ。それだけだ」 「…………………」 「それで欲しいものが手に入るのだ、難しい話ではなかろう?」 手を伸ばして届かないギリギリのところで、 プラプラと鍵を揺らしてみせる庵に、 京はしばらく考え込むと、一歩進んで鍵を奪い取る。 「わかったよ、やってやろーじゃん」 ニッと好戦的な微笑みを浮かべて拳に握り込む。 その姿を見ながら、庵も不敵な笑みを浮かべる。 その後、授業にも補習にも真面目に参加する 草薙京の姿があり、学校にどよめきの嵐が 起こったとか起こらなかったとか―――――――― 「…まあ卒業すれば俺のところへ永久就職するのだから、 一時のものでしかないのだがな」 「なッ……!?」 おわれい。 携帯版に掲載した京誕生日祝いの小説です。 誕生日おめでとうございます、京ちゃんvv もともと小ネタとして使うハズだったものを 小説におこしてみたので、色々苦しい部分もありますが(汗) でもまあバカップルが見事に出来上がりまして、 お祝いにちゃんとなったのではと思いますvv 庵に祝いの言葉言わせるの忘れましたけどね…(汗) ちなみにタイトル、最初は「進路相談」でした。 バレバレなタイトルだったんですけど…… 12時間程そのタイトルだったんですが、 見た方いらっしゃいますかねえ? 見た方はレアですよ?(笑) 携帯版の方は表示文字数の関係上、 ここまで改行は出来ないんですけどね。 多少こちらではアレンジさせてもらいました。 |