KOFも終わり、学校も休み。
久々に何もない穏やかな日。


暇をもてあました京は、何をするでなくブラブラと歩いていたが、
足が庵のマンションに向かっているのに気付く。
ここのところ自分は自分で学校や家の用事に付き合わされていたし、
庵は庵で作曲の依頼を受けて忙しかったので、
お互いの都合を考え、京は庵の部屋から実家へと戻り、
一月程別々に生活していたのだ。

「会えない日々に、庵欠乏症になっていたみてェだな…」

無意識に動いた足に、苦笑混じりにそんな事を呟きながら
向かうままに目的地へと歩いていく。

「しっかし……何か俺ばっかアイツに惚れてるみてェでムカツクよな〜…
 こっちは仕事忙しいだろうからって気を使って連絡しねェのに
 アイツからメールも電話もねえし……
 いい加減寂しくなるってもんだぜ……ったくよ〜……」

庵の住む部屋までの道のりを進みながら、ブツブツと愚痴る。
部屋まで到着すると、中の様子を伺う。
庵よりは劣るが、自分も多少は相手の気配を探る事が出来る。
元々庵は集中しなければわからない程気配が薄いが、
僅かながら気配を感じられる気がした。
以前渡された合鍵を使い、チャイムもなしに中へ入る。
……自分の家でもあるから、という理由らしい。





「ちーッス」

とりあえず形だけの挨拶をして、リビングに進む。
しかし普段一言くらいは返す相手からは何の返事もなく、
部屋も明かりがついておらず薄暗い。
気配は感じたはずなのに…とさらに進むと、
庵がソファに腰掛けている。

「んだよ、いるじゃね……―――」

声を描けて近寄ると、珍しく庵は眠っていた。
周囲には楽譜が散らばり、手から落ちたと見える位置に
鉛筆が転がっていた。

「そういやいつも最後の方は徹夜してたっけな…」

時々舞い込む作曲の仕事。
調子のいい時には集中してやる為、
気付いたら朝、などよくある事で。
京が学校に行く時に眠そうにしていたのを思い出す。

「面倒臭いとか言ってたワリに、好きなんじゃねェかよ」

部屋から引っ張り出した毛布をそっとかけてやりながら、
いまだ深い眠りの底にいる庵に楽しそうに微笑みかける。

「音楽に夢中なお前は…結構好きなんだぜ〜、俺」

普段面と向かって言えない事も、相手が寝ていれば別で。
でも思わず呟いてしまった台詞に赤面しつつ、
何言ってるんだか、と恥ずかしそうに頭を掻く。



毛布の重みに気付いたらしい庵が、
眉をひそめて微かに声を上げる。
覚醒する様子を見せたので、驚かせようと顔を近付ける。
だがそれは気のせいだったらしく、
再び深い眠りに落ち、規則正しい呼吸を繰り返している。

「よっぽど疲れたんだな〜」

その珍しすぎる光景に、クスクスと面白そうに笑いながら、
じっくりと庵の顔を眺める。
普段はキツイ印象しかない顔も、
獣を思わせる瞳が閉じられただけでも随分和らぐもので。
呼吸の為かうっすらと開かれた唇に目をやると、
思わず引き込まれそうになってカァッと頬を染める。

『ヤバイヤバイ、何考えてんだ俺は』

プルプルと首を振って考えを振り払うものの、
やはり視線は唇に行ってしまって。

『………ちょっとくらい……イイかな』

息を殺して、そっと庵に近付き、唇に触れる。
チュ…と軽く触れるだけのキス。
久々に触れる庵の熱に、鼓動は高鳴っていく。

「……何やってんだかな〜俺」

何だか秘密の行為のようで気恥ずかしく、唇を押さえながら
耳まで火照っていくのを感じる。
しかしそれでも庵は起きる様子もなく。
面白くないな〜と不満そうに溜め息を洩らした瞬間、
ピン、と悪巧みを思い付いたらしく、
ニヤリと意地の悪い笑いを浮かべる。

再び庵に近付き、着ているシャツの胸元を
出来るだけ気付かれないようそっとはだけさせると、
顔を近付けて、目立つ場所にキスマークをつける。
しばらくその場所を眺めて、消えないのを確認すると、
満足したようによしよしと頷く。

『いつも痕つけられて恥ずかしい思いしてんだ。
 お前もちったぁ同じ気分になってみやがれってんだ』

口に出してしまってはそろそろ気付かれると思い、
フンッ、と鼻息だけ投げかけて笑う。

しかしそろそろ起きると思った庵はまだ目覚めないらしく。
いい加減起きろと思う反面、
自分が騙されているのではないかと半信半疑になってくる。
もうイタヅラする気も削がれ、起こす意味で脇に座り込み、
胸板にトンと顎を乗せてもたれかかり、庵の顔を覗き込む。
その重さでようやく気付いたらしい庵が、ゆっくりと眼を開ける。





「よ〜やくお目覚めかよ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」





眼を開けたらドアップで京の顔があったのだから
仕方ないと言えば仕方ないが、
庵は相当驚いているらしく、眼を見開いたまま硬直している。

『……今日は何か珍しい顔ばっか見れるな〜』

そのリアクションに、満足そうに微笑みながら
「うっす、久し振り」と声を掛ける。
その声にようやく我に返ったらしい庵が
「ああ」とだけ反応を返す。

「妙に心地いい気配だと思えば…お前だったか」
「んだよ…気付いてたのか」
「………朧げながらな」

起き上がり、乱れた髪を直しながら言う庵に、
面白くなさそうな表情で脇に座り直す。
そのまま庵は立ち上がり、顔を洗うらしく洗面所へ入っていく。

『……[心地いい気配]って……俺かよ!?』

ぼんやりとその後ろ姿を見送っていた京が、
先程言われた言葉を思い出して、顔を一気に赤くさせる。
ここにいて当然のように扱われている自分にも気付き、
さらに赤くさせながら、先程自分が行った行動の
リアクションを確かめに庵の後を追う。





「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

洗面所では、顔を洗い終えた庵が胸元に残る痕を
じっと眺めているところであった。
先程とは違って、そう大して驚いていない辺り、
今まで踏んで来た経験の違いか。
舌打ちしたい気持ちで、庵の死角から眺めていると、

「……寝込みを襲うのは構わんが…」
「!?」

何故自分がいるのに気付かれたのか、と驚いたが、
鏡に自分の姿が写っていたらしい。
……当然だ、自分も鏡に写った庵の顔を見ていたのだから
バレないと思っている方がおかしい。
あわわわ…と元の場所に戻ろうと慌てていると、

「こんな印などつけずとも、俺は既にお前のものだぞ?」

クックッ……と楽しそうな笑いが背中に投げかけられる。

「ばっ……ちっげーよ!!お前と一緒にすんじゃねえ!!」

クルリと振り返って叫ぶと、庵が目の前にいる。
思わず目と目が合ってしまって、その色彩に捕われる。
ゆっくりと庵が近付き、京を引き寄せる。
されるがままに、庵の胸の中におさまる。
久し振りに嗅ぐ庵の香に包まれ、思わず安堵した吐息が洩れる。

ふいに庵が京の肩に頭を置き、甘えるように擦り寄って来る。

「京」
「ん?」















会いたかった










ボソリと何か呟いて首筋に証を落とす。
その言葉を思わず京は聞いてしまい、
首筋のキスマークがわからなくなる程に真っ赤になる。

「……っ 恥ずい事サラッと言うな、バカ」

庵に答えるように抱き締める力を更に込める。

「……俺だって同じだよ」

『何か今日は…調子狂わされっぱなしだぜ』

常にない事態に、熱に浮かされるようにぼうっとなりながら、
久々の逢瀬を楽しむ2人だった。



































「ちなみに聞くけどさ、仕事終わったのかよ」
「ああ……」
「納期いつ」
「……これから取りにくるはずだ」
ピンポーン

ガチャッ
「八神さん、出来ましたか〜」

「!!!!!!!!!!!」(突き飛ばす)

「あれ……八神さん、どうされました?」
「………何でもない」











おわり

















久々の小説?ですけど……何だこれ(笑)
物凄い砂吐きそうな内容ですいません……
庵に驚いて固まって欲しかったんですよ〜〜〜
こちらの目論見は見事成功したワケですが、
京の目論見は失敗でしたね。
…ホントに寝込み襲えば良かったんだよ(笑)
でも何かまったり夫婦(笑)が書けてちょっと幸せです。
……最初はギャグだったのになぁ……あれ?(笑)

ちなみに背景の写真は自作です。
色々サイト巡ったんですけど、希望のものがなくて。
自分でアレコレ悩みながら撮りました。
雰囲気に合ってるかは……謎ですけどね(汗)