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師走、X'mas一色に染まり賑わう街中を、 黒髪の青年が今にも鼻歌を歌いだしそうな程上機嫌な様子で 人ごみを踊るようにすり抜けていく。 「さ〜て、何食わせてくれんのかな〜♪」 1時間程前、部屋の掃除をしていた京の携帯電話に メール着信を知らせるメロディが流れる。 そのメロディは特定の人物を知らせるもので、 設定はしたものの、あまりかかってくるものではなかったので 驚きつつ、慌てて携帯の置き場所にかけていく。 八神 庵 短い内容ではあったが、庵が「来い」と伝えて来る事など 普段あまりない事なので、嬉しさに顔が緩む。 メールを受け取ったのが街中ではなく家でよかったと思いつつ、 ニヤニヤしたまま了解の返信を返し、携帯を閉じる。 そしてそのまま、浮かれた様子で鼻歌を歌いながら、 通常よりも早いスピードで掃除を片付けたのだった。 部屋から駅までの距離はさほどないが、 それでも時間より少し早く到着するように出掛ける。 そうして冒頭へと戻るのだが、嬉しさはまだ収まらず、 携帯で時間を確認しては先程のメールを思い出し、 ニヤつく顔をおさえられない。 咳払いをして誤魔化しながら、半ば早足で駅へと急ぐ。 指定された場所に到着すると、 駅は同じように待ち合わせをする人々で溢れかえっており、 目立つハズの赤い髪を発見する事が出来ない。 キョロキョロと周囲を見回していると、 柱に寄りかかり、退屈そうに時計を眺めている庵を発見する。 「おっ、いたいた!!」 近付こうと方向転換すると、側にいた女性達の声が耳に入る。 「ねえ、あの赤い髪の人、凄くイイカンジじゃない?」 「わ……ホント……」 「声掛けてみよっか」 「え?でも誰か待ってる感じだし、きっと凄い美人の彼女いるって」 「そっか、そうだよね」 「あんなカッコイイ人、世間は放っておかないよ〜」 「……………………」 ヤバイ、今俺が出て行ったら何言われるか…… 目が合いそうになり、思わずその女性達に背を向けて、 冷や汗の流れそうな顔を隠す為に俯く。 改めて周りを見ると、女性達の視線は、 確かにもたれかかる庵の姿に集中していて、 連れ立った者がいる場合は、何やらヒソヒソと話をしている。 ……そんな中、「よお八神」なんて入って行ける程、 京の神経は太くはなかった。 確かに、八神のヤツは赤い髪で目立つだけじゃなく、顔もイイ。 さっきまでの浮かれた気分が嘘のように沈み、 このまま帰ってしまいたい気分にさえなる。 本当にそうしてしまおうかと庵に背を向けようとすると、 ふいに誰かに強く腕を掴まれた。 「ようやくみつけたぞ、京」 驚いて振り向くと、そこには普段と変わらぬ庵の姿があった。 人混みにもまれているであろう京ををみつけてくれたらしい。 「お、おう八神」 「こんなに人が多いとは思わなかった。……行くぞ」 そう言って、腕を掴んだまま京を人混みの外へと連れ出し、 目的地へ向かって歩を進める。 「…まったく、好き勝手に言ってくれるものだ」 雑踏に消えそうな音で、庵が不満そうに呟いた。 庵が腕を掴んだとき、京は驚きで聞こえなかったようだが、 その瞬間に、周囲が更に騒がしくなった。 すぐ側にいた先程の女性達も動揺に騒ぐ。 「え〜、あの人が待ってたのて友達だったんだ!!」 「あ、でも来た黒髪の人もカッコイイよ!!」 「ほんとだ、待ってた人とはまた違ったイイ男だね」 「赤い髪の人は声掛けづらい雰囲気だけど、こっちの人は優しそうだし、声掛けてもいんじゃない?」 「……両方GETできちゃうってワケだ」 などと言い出したので、面倒事になる前にサッサとその場を去ったのだった。 確かに視線が集まっていたのは、この赤い髪からして目立つので理解していたが、 京にまでそれが及ぶのは、何となく面白くなかった。 「ちょっ…腕痛いって八神」 「ああ……」 考え込むあまり、思いのほか力が入っていたらしく、 掴まれていた京の顔が歪み、抗議の声を上げる。 「何怒ってたんだ?まあいいや、それより、どこ連れて行ってくれるんだ?」 「ああ、せっかくの誕生日だしな、店を予約してある」 「………そういえば……はは、忘れてた」 「……それまで散々騒いでいたのは何だったんだ」 「ははは…あ、でも堅苦しいのはパスだぜ?」 「そう言うのは予想済みだ」 「さすが、よくわかってるvv」 嬉しそうに微笑み、「よ〜し、食うぞ〜!!」と意気込む京の後を追う。 …………少しだけ表情を和らげながら。 「そういえばさ〜、今日仕事だったのにベースケースどうしたんだ?」 一定額払えば飲み放題&食べ放題という居酒屋を予約し、 テーブルいっぱいに並べられた料理を平らげる京を横目に、 多少眉をしかめつつも、その光景を眺めている庵。 その荷物が普段と違う事にようやく気付いたらしい京が、 素朴な疑問をウーロン茶片手に(酒は飲むなと言われたらしい)尋ねる。 「……お前と歩くのには邪魔だからな、預けて来た」 「今日って……KONOEさんのライブの練習だったんだよな。 じゃあ桑原さんとかいるから大丈夫か………なるほど」 KONOEというのは、昔庵とバンドを組んでいた女性ボーカリストで、 バンド解散後、父である桑原の協力をもとに、 今やヒットチャートNo.1のアーティストだ。 昔の仲間という事で、庵は近郊でライブがある際には 声を掛けられ、ベーシストとして借り出されている。 昔馴染みであり、桑原は同じベーシストであり、庵もその腕を認めている。 信頼出来る相手でない限り、庵が自分のベースを預ける事はない。 庵のセリフを1聞いて10知る辺り、京も庵をよく理解していると言えよう。 「また見に行きてェな〜」 「……アイツの事だから、無理にでも呼ばれるぞ」 「……確かに」 他愛のない話は弾み、夜は更けて行く――――――――― 「ふあ〜、食った食った!!ごちそうさま〜vv」 「……満足したか?」 「そりゃあもぉ!!!」 幸せいっぱいといった表情で店を出る京に声をかけると、 満面の笑顔で返事が返って来た。 それに少なからず満足そうな表情を浮かべる庵。 「京、上手い酒を出すいい店があるんだが」 「……珍しいな、お前が尋ねるなんて」 少しためらう様子で問う庵に、おかしそうに微笑みを返しながら、 「ちょうど酒飲みたいなと思ったところなんだ」と答える。 それに庵は頷きを返すと、タクシーを拾い、その場所を告げる。 着いたのはアーケードが続くショッピングモールから、 少し離れたビルの中にある、静かなバーだった。 中は証明が落とされ、ローテンポなジャズが流れており、 大人の雰囲気を漂わせる、おしゃれな空間だった。 普段京はこういう場所に立ち入る事はないので (酒があまり飲めないせいもある) 少し気後れしつつも、庵に促されて中に入る。 「いらっしゃいませ。……おや、お久し振りですね」 カウンターに座ると、60代くらいの初老のバーテンが庵に声をかける。 「……ああ、そうなるな」 庵も特に警戒した様子もなく、普段の落ち着いた口調で答える。 「ここ来たことあんの?」 「ああ…随分昔の話だがな」 「そうですね…もう5年も前になりますか。 しかし…どなたかとご一緒に来店されるのは初めてかと」 「そうだったか?」 「…………!!」 その言葉に、何故か赤く頬を染める京に、 バーテンは何やら勘付いたらしく、京に優しく微笑みかける。 庵は京の様子にクックッ…と楽しそうに笑いを洩らすと、 腹を肘で突かれ、睨まれてしまう。 「今日は何になさいますか?」 2人のやりとりに絶妙のタイミングで話題を変えるバーテン。 その言葉ひとつで京が慌てたような表情に変わる。 「そうだな……俺には『バカラ』を。 京には………『レッド・アイ』を頼む」 「かしこまりました」 そう言って引っ込むバーテンの変わりに、京が不安そうに 庵のジャケットの袖を掴む。 「あのさ…」 「お前が酒にあまり強くないのは知っている。 そうアルコール度の強いものではない」 「ホントか?」 酒を飲ませて酔わせてナニかするつもりか、 と言いたげなのがハッキリと表れている京の顔に、 自分は一体どう思われているのか…と呆れながら、 先程とは違う、30代くらいのバーテンを呼ぶ。 「すまんがコイツに『レッド・アイ』のアルコール度を教えてやってくれ」 「はい。『レッド・アイ』にはビールとトマトジュースを使いますので、 アルコール度は2度程になりますね」 「2度……ってどれくらい?」 「そうですね、市販されている缶のビールが5度ですので… ジュースの分量によっても変わりますが、その半分だと考えて頂ければ」 「へ〜……じゃあスゲエ軽いんだ」 「そうですね、お酒は弱いという方にはよろしいかと」 さすがにバーテンの言葉は信じたらしく、安心した表情を浮かべる。 その配合に感心していたらしい京が、何かを思いついたらしく、 再びそのバーテンを呼ぶ。 「じゃあ、八神の頼んだ……『バカラ』ってのは?」 「ウォッカ、テキーラ、ホワイト・キュラソー、ブルー・キュラソー、 それからレモンジュースを使います。 ウォッカという非常にアルコール度の強いものを使いますので、 アルコール度は33度程になりますね」 「うへぇ……よくそんな強い酒飲めるな」 「……俺には大した事ないんだが」 「!!!! バケモノかよ」 「お待たせ致しました」 2人の前にコトリと置かれたグラスには、 赤と青の美しいカクテルがそれぞれに入っている。 『レッド・アイ』はその名の通り赤く、 『バカラ』は同じように名の通りのバカラグラスに入った 青い色のカクテルだ。 「うわぁ…綺麗だな〜」 「有難うございます」 2つ並んだグラスを交互に眺めて、淡い照明に輝く姿を うっとりとした表情でみつめる京。 バーテンが「ごゆっくり」と下がると、 それを見計らって再び京が袖を引っ張る。 「俺達の焔の色みたいだな」 「……その通りだ」 ようやく気付いたか、というようにニヤリと笑う庵に、 京が真意に気付いて目を見開く。 「!! だからこれを選んだのか」 「ああ」 「………カッコつけやがって」 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、 誤魔化すように庵をからかう。 「本当は『ブルー・ムーン』の方が俺の色に近いが、 23度と比較的度数が低めなのでな」 「………く−っ ムカツク!!」 クックッ…と笑いながら酒を飲む庵に、 その姿に見蕩れながらも、悔しそうに顔を歪め、 同じようにグラスを傾ける。 「お……イケる」 トマトジュースにほのかにアルコールを感じる程度なので、 口当たりもよく、かつビールなので京も飲める代物だ。 嫌がる様子もなく飲んでいる京に、庵は少し安心した表情を浮かべつつ、 その横顔を眺めている。 会話が弾むにつれて酒も進み、2人のグラスは空になってしまった。 「他にも何か召し上がられますか?」 「『ブルー・ムーン』と……アームストロングの名曲を」 「かしこまりました」 注文を受け、シェーカーを振る姿を見ながら、 ジロリと京が庵をみつめる。 「何かまたカッコつけた事言う〜」 「……名前を忘れただけだ」 「ホントかよ……」 呆れた様子で庵を睨む京をよそに、 小気味よいシェーカーの音が店内に響く。 出来上がったカクテルが前に置かれる。 今度は赤と薄い紫色をしている。 先程庵が話していた通り、この薄紫色が『ブルー・ムーン』なのだろう。 「月」と「紫」が、まさに庵を象徴しているかのようなカクテルだ。 「あ〜、確かにお前って感じだコレ」 グラスを引き寄せて、じっくりとその美しさを眺める。 一口含んでみると、レモンジュースの味と共に カーッと喉の奥が熱くなる。 「うわ……ちょっとキツくね?」 「23度だからな、少しずつにしろ」 「ーで、そっちのは何て名前だ?」 アルコールが回り始めたのか、火照る顔を手で パタパタと扇ぎながら、庵が手にしているグラスを指差す。 庵がその視線を受け流すようにバーテンへと向ける。 「こちらは『キス・オブ・ファイヤー』と申します」 「キッ……!!」 酒とは違う顔の赤みを際立たせ、ニヤリと口元を歪める庵を睨む。 「お前の色でありながらこの名……なかなか官能的だろう?」 「……………………」 「飲んでみるか?」 キツい視線をものともせず、グラスを勧めてくる姿は、 明らかに反応を楽しんでいる。 こんな静かな場所では叫ぶ事も出来ず、恥ずかしそうにしながらも 挑まれたからには受けずにはおれない京は、 勧められたカクテルを口に含む。 「……っ、さっきよりキツ…ッ」 「25度だ、それにウォッカが入っているからな」 「最初砂糖で甘かったから……油断した」 ケホケホと咳き込む京に、水を渡してやりながら 周囲の目をはばかる事なく、スッと顔を寄せる。 「俺とのキスもこんな感じだろう?」 「ッ!?バッ……」 さらに赤くなった京は、今の酒が回ったのか、 庵のセリフにやられたのか、クラクラと庵にもたれかかる。 「…これはキツ過ぎたか。すまん、マスター。今日はこれで失礼する」 「有難うございました、またお二人でお越し下さい」 クタリとした京に肩を貸して店を出る。 夜風が冷たいが、酒で火照る体にはちょうどいい。 いまだフラフラと歩く京を抱き寄せ、そっと耳に囁く。 [burn me………] その後、酔った京を介抱すべく、庵がどこへ向かったか、 もはや言うまでもない―― Happy Birthday...... 京ちゃんHappy Birthday!! 貴方が生まれて来てくれて本当に嬉しいです、有難う!! そして庵さんと末永くお幸せに!! ーで、小説ですが……急増でごめんなさい(汗) 前半なくてもイイカンジですね。 今回は庵さんにどうしても「burn me」と言って欲しかったので!!!(悶) 「kiss of fire」はルイ=アームストロングさんの曲でもありまして。 歌の最後に「ah………burn me」って言うんですよ。 「私を燃やし尽くしてくれ」みたいな意味だと解釈できるので、 今回使ってみました〜vv ……砂吐きな内容ですいません(汗) 実は長くなるのでやめた没の後半があるのです。 後程後半部分はアップするつもりでしたが…データ消えてました(汗) そっち版では前半部分がちゃんと機能してたんですけどね〜。 ともかく、長い文章を読んで下さって有難うございました!! m(_ _)m |