庵の前に、ズイとトランプの箱が現れる。
「うっし、庵!!ポーカーで勝負しようぜ!!」
その声に大きな溜息と頭を抱える者1名。

京の最近のマイブームは[賭け事]。
但し金銭物品を賭けるのではなく、『〜する権利』を賭けるのだ。
最初に賭けた『1日Hな事をしない権利』を賭けて庵に勝った事に味をしめたらしく、
事あるごとに何かと勝負を挑んでくる。
過去行った勝負は8回、内庵が5勝3敗で今のところ勝っている。
それが悔しいのか、ここのところ挑んでくる回数が増えてきている。

「……今回は何だ?」
うんざりとした表情で渋々その申し出を受け、賭けられている権利を確認する。
それもそのはず、挑戦を受けなければ京は何もしないしさせてもくれない。
更に面倒な事に勝負を拒否するとしつこく付きまとわれる。
ここ数回においてそれをイヤという程理解させられたので、ゲームをせざるおえないのだ。

「今までは『風呂掃除』とか『食事当番』とかチマチマしたもん賭けたけど、今回はデカイぜ?」
自慢気にそう語って、人差し指をビシッと庵の前に突き出す。
「今回は『1日下僕』権だ!!負けた奴は勝った奴の言う事を1日イヤでも聞かなきゃいかん!!」
どうだ〜!!と、今回は余程勝てる自信があるらしい。庵としても今回の権利に文句は無い。
「ーよし、受けてやろう」

「「勝負!!」」

プレイ方法はポーカー、カード交換は1回、勝負も1回のみというルールで行われた結果。
庵が『3カード』京が『1ペア』という、実に地味な結果で庵の勝利となった。

「く----------------ッ!!!!!ストレートとかフルハウスとか出しやがったらイカサマかもとか思うけど、
 3カードなんて中途半端な手じゃそうは思えね〜しな〜……チクショ---!!悔しい〜〜〜!!」
バンバンと机を叩いて悔しがる京を横目に、トランプを片付けながら庵がニヤリと笑う。
「ではこれから1日、お前は俺の下僕になるワケだな……」
クックッ…と楽しそうに笑う庵を悔しそうに睨みながら、
これから何を要求されるかを考えて、半ば逃げ腰になりながら指示を待つ。
「ならば…まず何をしてもらおうか……」
のんびりと、しかし意地悪そうな笑みを浮かべて考え込む庵の隣では、もはや気が気で無い様子の京。
『絶対普段は俺が嫌がるからしないようなHな事をされるに違い無い!!』とか考えていたり。

「そうだな、これから俺は3時間程仮眠を取るから、その間に洗濯と掃除をしてもらおうか」
「------------へ!?」

思い掛けない提案に、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「何だその顔は。大方いやらしい事でも要求されると思ったんだろう」
俺はケダモノか!?と苦笑され、京は図星やら申し訳ないやらで俯いてしまう。
その頭を軽く撫でながら、庵は自室のドアを開ける。
「ここのところ作曲作業であまり睡眠を取って無いんでな、後は頼んだぞ」
そう言って扉を閉める間際にニヤリと笑う庵に、ビクリとしながら、姿を見送る。

「……そんなに眠かったんだ…」
そうにも関わらず自分のわがままに付き合ってくれた、庵のさり気ない優しさに嬉しくなり、
京は言い付け通りの仕事をこなすべく、腕まくりで気合いを入れた。


その後、夕飯の買い出しの付き添い&荷物持ち、食器の片付け、部屋の模様替えの手伝いなど
様々な事に散々コキ使われ、夕飯が終了した時には、既にグッタリとしていた。

「…………受け取れ」
ソファに疲れた様子で倒れ込んでいた京の頭上に、ヒンヤリとしたジュース缶が当てられる。
それを受け取ってボンヤリと缶をみつめる。
「……どうせならビールがイイ……」
ハラハラと泣きながら不満を訴えると、隣に座っていた庵から肩をポフンと叩かれる。
「疲れている時にアルコールを摂取すると悪酔いするぞ。
 糖分には疲れを取る作用があるんだからそれで我慢しろ」
「ぁぅ………」
缶をプシュッと開けて、中身を飲み干す。
そこでふと時計を見て、まだ自分が『下僕』の地位にある時間だと気付き、
なのにも関わらず自分を気遣ってくれている庵に、心の中で密かに感謝する。
そんな事は露知らずの庵は、じっと自分が握っているビール缶をみつめて何か考え込んでいる。
やがてテーブルにそれを置くと、京の前に寄せて来る。
「俺はもういらんから、後はお前が飲め」
「ホント!?サンキュー庵〜☆」
先程言った事を気に掛けてくれていたのか、
まだ半分以上残っているビール缶に感謝の言葉を投げつつ手に取る。
…この際、間接キスになる、などとは思い浮かばない辺りが京らしいといえよう。

「その代わり……………」

『来た』と言わんばかりに、ビール缶に伸ばした指がビクリと強張る。
次の言葉を待つように庵を見ると、同じ目線にあるはずの顔がなくなっており、
代わりに太腿に重みがかかる。見ると庵が京の太腿に頭をもたれかからせている。
「しばらくこうして休ませてもらう」
そう言って京を膝枕にしてドッカリとソファーに寝転ぶ。
京は呆気に取られて、ポカンとした表情で庵の頭を眺めている。
その視線に気付いた庵が京の顔を見上げる。
「不服か?」
「いや……そうじゃないんだけどな」
下から見上げてくる端正な顔に、不覚にも心臓を掴まれながら慌てて首を振る。
「じっとしてろ」
そう言ってゴロリと横に転がると、服の上から庵の頬の感触が伝わって来る。
庵はそのまま呑気にTV番組を見ているが、されている方の京はもはやビールどころではなく、
真っ赤に顔を火照らせたままで固まっている。
更に頭の中では、
『何でお前は冷静なんだ』とか『俺がドキドキしてどうする』などの思考がグルグルと巡り、 パニック状態に陥っている。

TVを見ていた庵がふと手前のテーブルを見ると、先程からビール缶が動いていない事に気付く。
「おい、飲まないとマズくなるぞ?」
声を掛けつつ上に顔を巡らせると、京と目が合う。
庵がそのままみつめていると、京は更に赤くなって顔を背けてしまうので、
その反応の初々しさに思わず笑みが洩れる。
「何がそんなに恥ずかしいんだ」
「……わっかんねーッ……」
慣れない行動が余程照れくさいのか、表情を見られたく無いのか、口元を手で必死に隠している。
「…いやらしい事をして欲しいなら、ちゃんと言え?」
「………ッ!!」
冗談にツッコミを入れる余裕もない程にパニックに陥っているらしい相手の状況に苦笑し、仰向けに転がる。
京を見上げる姿勢になって、その顔に手を伸ばす。

「京、こっちを向け」
その声に反応して、そろそろと京の顔が見え始める。まだ恥ずかしいらしく、口元を手で塞いではいるが。
「………何だよ」
「ビールが飲みたい」
「勝手に取って飲めよ」
「このままの姿勢では飲めん」
「…………………何が言いたいんだよ」
何となく相手の意図する事はわかってはいたが、それを認めたく無いのか、
庵を冷ややかな目で見下ろしている。
「ビールを飲ませてくれと言ってるんだ」
「……どうやって」
方法を考える事さえも放棄して、その命令さえも拒否したい方向だ。
「ー方法は1つだな」
「……………………………………………………………………」
完全に思考停止している京に、助け舟という名の悪魔の囁きを放つ。
「安心しろ、この命令で『1日下僕』の権利は終了だ」
そう言って指差されたTVに表示されている時刻は「PM11:58」
1日が終了するのに後2分もない。
「この命令さえ聞けば、お前はもう自由だ」
「…………よし、やってやる」

意を決してビール缶を掴み缶を傾け、少しぬるくなったビールをあおる。
そして液体を含んだ状態で身を屈め、腿の上にある庵に顔を寄せていく。
庵も出来るだけ身を起こし、京から受け取り易い体勢を取る。
唇が触れ合うと庵は京の服を引っ張って更に前に屈ませ、片腕を京の首の後ろに回して頭を引き寄せる。
深く唇を貪るように絡ませると、その間をビールが移動していく。

「んぅッ!?」
一旦唇を離して庵がビールを飲み干すと、また唇が寄せられる。
京はそれで終わるものだと思っていただけに、驚きで硬直してしまう。
その隙を利用して、庵は何度も角度を変えて唇を味わう。
「………ッ」
しばらくすると、唇を離す合間に京の口から甘い吐息が洩れ始めて来るので、
それを見計らうように唇を解放すると、名残惜しそうな色合いの瞳が庵をみつめてくる。
その反応にニヤリと笑ってやると、京の意識がハッと覚醒して庵を引き剥がしにかかる。
「命令が違うじゃねえか!!しかももう時間過ぎてるし!!」
赤い顔で文句をいいながら、ゴシゴシと口元を拭う。
「今のはビールを飲ませてくれた礼のつもりだったんだが?」
口元を歪めながら京の膝から起き上がり、そのままソファーを立ち上がる。
「なかなかお前の膝枕は気持ちよかったぞ」
そう言って頭をポフポフと叩くと、思い出したらしい京が真っ赤に顔を染める。
「色々手伝ってもらったから疲れただろう、缶は片付けておくから、お前はもう寝ろ」
そう言って2つの缶を持って歩き出そうとする庵の服の裾を京が引っ張るので、
庵が振り返るが、その位置からは京の表情は見えない。

京の言葉を待ってじっとしていると、更に裾が引っ張られ、そこに京が顔をうめる。
「お前、ホント意地悪ィよな……」
「何が」

「俺が今、立ち上がれないのわかって言ってるだろ、それ」

消え入りそうな声でそう言って腰に腕を回して背中に抱きつく京の表情が見たくて、クルリと振り返る。
「缶の始末は明日でいいからさ…とりあえず俺をベッドまで運んでくんないかな…」
困ったような表情で見上げて来る仕種の色気にあてられて、欲望を昂らせていく。
缶をテーブルに戻して屈むと、京を横抱きに抱え上げる。
「それは…そういう意味に解釈してもイイんだな?」
ニヤリと笑いかけてやると、首に腕を回して肩口に寄り添って来る。

「……イイです…」
小さな声でそう囁く横顔に軽いキスを落として、2人は部屋へと消えていく。


2人の甘い夜は、これから始まる……


おわり

2003年の八神庵誕生日祝いに書いてみました。
とりあえずコンセプトは『膝枕』だったんですけど…
よくわかんなく終わってしまいましたな(笑)
無理矢理エロを削った感がいなめないですが、最近エロばかりだったので
少しはまとも?なのを、と頑張ってみました。
そんなワケで、庵に捧げます。
庵ん誕生日おめでとう!!京と幸せにな〜!!(笑)