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1月12日 午後5時06分 成歩堂法律事務所 「ふわぁ…………」 ひょうたん湖での生倉雪夫殺害事件、および時効間近だった[DL6号事件]を解決し、 ようやく穏やかな新年を迎えて数日経ったある日。 成歩堂法律事務所では、所長である成歩堂龍一がヒマそうに欠伸を洩らしていた。 助手の綾里真宵が「一人前になるまで戻って来ない」と故郷である倉院の里へ帰ってしまい、 それ以来何となくやる気を削がれてしまって、依頼を受ける気になれず、今現在この事務所は開店休業中なのである。 依頼を受ける気もないのに事務所を開けているというのも、経済状況がよろしくない身の上としては 意味も無いし『異議あり』とムジュンを指摘されても文句は言えないが、 日々の習慣でそうしてしまうのだから仕方ない。 ……と誰に聞かれたのでもないのに己にそう言い訳をして、事務所へ来てはボーッとするという 非常に怠惰な生活を繰り返している。 外が段々と夕闇に包まれていき、そろそろ閉めて帰ろうかと考えていた矢先、 成歩堂の携帯に一本の電話がかかってきた。 誰だろうと首を捻りつつ表示を見れば……『矢張 政志』の文字が。 「……………………………………………」 『事件の影にはやっぱり矢張』と小さいの頃から言われ続けている、幼なじみであり親友でもある矢張。 その言葉が示す通り、今までの経験上、彼からの電話を受けて良かった事があった試しは………あまりない。 正直言えばほとんどない……皆無と言ってもいいかも知れない。 そのくらい厄介事を拾い上げて来る確率が高く、巻き込まれる確率も非常に高い。 そういう意味で言えば、矢張のトラブルメーカーっぷりはもはや才能と言ってもかもしれない …非常に迷惑ではあるが。 出来る事なら、電話に出ないでこのまま放置して無視したいのだが、出なければ出なかったで 「何で出ねェんだよ成歩堂ォォォォォォォッ!!」と事務所に押し掛けてくるに決まっている。 容易に想像出来てしまう結果に溜息をつきながら、相変わらずコールし続ける携帯を拾い上げた。 「もしもし?」 「よう、成歩堂。お前出るのおっせ〜よ!!」 通話ボタンを押すと、いつもと変わらぬ様子の親友の怒りの声が、けたたましく返って来る。 第1声が「俺もう死ぬんだぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」だった場合は最悪の事態(成歩堂にとって)なので、 これといって取り乱した様子の無い普通の声に、ひとまずは安堵の息が洩れる。 「ごめんごめん、今までほったらかしにしてた資料の整理してたもんだから」 「仕事中か?」 「いや、特に急ぎじゃないよ。それより何か用?」 「ああ、これから飲みに行かねェか?御剣も誘って、幼なじみ3人組で久々に語り合おうぜ!!」 すべてのはじまり 同日 午後7時47分 成歩堂法律事務所 待ち合わせ場所を成歩堂法律事務所前にし、やって来た矢張と共に事務所内で御剣の仕事終わりを待つ。 「御剣、何時くらいに来れそうだって?」 「そろそろじゃないかなあ?車を自宅に置いて来るって言ってたし、ちょっとかかるって」 「律儀なヤツだな〜」 「いやいやいや、アイツ検事だし。法で裁く側の人間が法律違反しちゃマズイだろ……」 「ーすまない、遅れた」 他愛ない話をしていると、自宅へ戻った際に着替えて来たらしく、 シャツとグレーのジャケットとジーンズという随分とラフな格好になった御剣が現れた。 いつものヒラヒラで派手な格好ではない相手に、2人は呆然とその姿をみつめる。 「ム……何か私の顔についているだろうか」 「そうじゃないけど…」 「いつもヒラヒラなのかと思ってたぜ、俺。フツーのカッコも出来んだな」 成歩堂が言い淀んだセリフを、矢張はアッサリと言ってのけてしまった。 確かに、成歩堂も同じく、あのフリルタイと赤いジャケット姿しか見た事はない。 一方御剣は、気にしていた事だったのかダメージを受けたようで、眉間の皺が深くなる。 「なっ……!!あれは法廷へ赴く際の、いわば礼装だ!!私とて普通の格好もする!!」 「お、落ち着けって御剣(汗)コイツの言う事にマジに受けるだけ疲れるだけだから!!」 「ム……そうだな」 成歩堂の宥めの言葉にスンナリ応じる御剣を見て、矢張が首を傾げる。 「……?何かそれで落ち着くってのもヒドくね?」 「と、とにかく!!こんな所で話してても仕方ないから、店へ行こうよ」 「そうだな!!よーーし!!飲むぞ〜!!」 「あのな〜矢張、僕あんまり持ち合わせが……」 「お前の財政状況くらいちゃんとわかってるって!!安くて美味しい店に行くからよ」 『俺サマに任せろ!!』と親指をビシーッと突き出して片目をつぶる矢張に、ホッと肩の力を緩める成歩堂。 上手く話を誤魔化せた事に安堵しているらしい姿に、横を歩く御剣は表情を緩めつつ、 鼻歌を歌いながら先をズンズンと歩いて行く矢張に続く。 同日 午後8時21分 居酒屋『ちょうちん』 「そんじゃ、幼馴染3人の再会を祝して、カンパーーーイ!!!」 「乾杯〜」 「うム」 1人テンションの高い(いつもの事)矢張の音頭で、3人のグラスがチン、と合わさる。 運ばれて来た料理を食べ感想をもらしながら、酒を煽る。 しばらくすると、程よく酒の回った成歩堂が赤い顔で口を開く。 「またこうやって、3人で話が出来るようになって良かった……」 ポツリと洩らされた言葉は小さかったが、その表情に嬉しさが溢れており、 他2人は驚いたようにその顔をみつめる。 「大げさじゃねェか?成歩堂よ〜」 「そう?矢張はともかく、御剣とこうやって再会出来て本当に嬉しいんだ」 「そっか、小学4年以来、15年ぶりだもんな〜…」 「うム……………」 成歩堂の言葉に、3人それぞれが過去を懐かしむように目を細め、思い出に浸る。 「しっかしよォ、成歩堂が弁護士になるなんて、あの時思いもしなかったぜ」 「そう?」 「御剣が検事になったってのも驚きだけどな」 「それは………」 「うム……色々あってな」 チラリと気遣わしげに、向かいにいた御剣を心配そうに成歩堂が視線を向ける。 だが、解決した事で幾分か精神的に落ち着いた様子で答える御剣に、ホッと胸を撫で下ろす。 「ーま、詳しく聞く気はねェけどな、どうせ長くなるだろうし」 矢張も気配を察して気遣ってたのか本心なのかははかりかねるが、 特に深く聞き出すつもりもないようで、サラリと話を終わらせる。 引き際をわきまえた喋り方をするから、矢張は女性と上手く付き合えてるのかもな…(結果フラれはするけど) などと、成歩堂がビールをチビチビ口にしつつ考えていると、 「そういえばさ、御剣。成歩堂が何で弁護士になったか、知ってっか?!」 「ぅブッ!!!」 向かいの御剣に内緒の話をするように身を乗り出した矢張の言葉に、 驚いて思わずビールを吹き出しそうになって咳き込む。 ゲホゲホと咳き込む成歩堂を、矢張は面白いものを見たとケラケラと笑っているだけだが、 向かいの御剣は心配そうにハンカチを差し出してくれる。 「大丈夫か?成歩堂」 「ッ……うん、大丈夫……」 「それで?弁護士になった理由…だが。あの学級裁判がきっかけ、と聞いたが」 まだ咳き込む成歩堂をよそに、さらに会話は進んで行く。 あの時、矢張にネタにされるとわかっていたのに、何故喋ってしまったのか…と 今更ながらに悔やんでしまう。……いや、あの時はまだ真実を知らなかった。 ただ純粋に、自分が矢張を信頼しているという事を知っていて欲しいと思っただけだったのだが。 「いや、それもなんだけどな。実はーーー」 「ぼ、僕ちょっとトイレに行って来る!!」 この話を聞いた御剣の反応を考えると、何だかいたたまれなくなって、 成歩堂はその場を逃げるようにトイレへと駆けて行く。 心なしか、耳が赤かったように見えたが、酔いが回ったのかと解釈して、御剣はその背から視線を戻す。 「それで?」 「ーああ、それでな」 ククッと面白そうに先に笑う矢張に、御剣は何となく面白くない気分になり、眉根を寄せて矢張を見る。 「何なんだ、早く言え」 「実はさ、アイツが弁護士になったのって、お前に会う為だったんだってさ」 「………………!!」 ―――――――成歩堂が『御剣に会う為』に、弁護士を目指した………? 驚きとよくわからない感情で混乱し固まっている御剣をよそに、話は進んで行く。 「2年前だったか3年前だったか忘れちまったけど、お前に『黒い疑惑』がかかった事があっただろ?」 「……ああ…あれか」 [SL9号事件]…既に事件は解決し、犯人も処罰を受けているが、あの事件における裁判において、 証拠品の『捏造』や『隠蔽』などの、いわゆる『黒い疑惑』があるのでは、と当時各メディアでかなりの話題となった。 「あの記事を見て、『今の御剣はあの時の自分と同じだ、今度は僕が御剣を助ける。その為に何としても御剣に会うんだ』 って猛勉強したらしいぜ?」 「そうだったのか……」 事実を聞き、いまだ混乱し呆然とした様子で言葉を紡ぐ御剣。 矢張はその頑までの信念に感心しているようで、正面で頬杖をつきながらスゲエよな〜と呟いている。 「それでホントに弁護士になってお前に会いに来るんだから、スゲエよアイツ」 「……そうだな」 矢張りの呟きに曖昧な返事をしつつ、御剣は思考を巡らせる。 成歩堂はあの学級裁判での出来事で恩義を感じ、借りを返したかっただけなのだろう。 だから『自分に会う為』と言っていても間違いはない筈だ。………成歩堂は、大事な友人なのだから。 ………なのに、何故こんなにも心が揺れて苦しい気持ちになっているのだろうか。 「………もう終わった?」 ちょうど話が終わったところで、様子をうかがうようにヒョコヒョコと成歩堂が現れる。 「おう、ちょうど終わったとこだぜ」 「ああ、じっくり聞かせてもらったぞ」 ニヤリと笑う幼馴染2人組の顔を睨みながら、再び席に腰を下ろす。 『くっそー、言うんじゃなかった』と小声で呟くのを聞いて、2人は顔を見合わせて笑った。 |