演習の合間の昼休み。

カカシ隊第7班の面々は演習場の芝生にサクラ持参のシートを敷き、
各自持ち寄ったお弁当を広げて話に花を咲かせている。
ただサスケだけは相変わらず群れる事を嫌うようで、面々と距離を置き、
少し離れた場所にある林の樹の枝に腰掛けている。
ただ以前は探しに出なければわからない位置にいたものの、
今は少し顔を向ければ、僅かでも姿を確認出来るようになっただけ、
以前の彼からすればかなりの進歩は見られるようだ。



「そういえば、皆が好きなものって自己紹介の時にしか聞いた事ないし、
 あの時は私達仲良くなかったし興味もなかったから、聞いてもイイ?」

昼食を食べ終え、お茶で一息ついたところで、
サクラがふと思い出したように提案を持ちかける。
…『興味がなかった』とズバリ言ってしまう辺りが非常にサクラらしい。

「それじゃあ………まずはナルトから」
「おう!!俺ってばやっぱー」
「『ラーメン』はわかってるからそれ以外ね」

指名されたナルトの先を予想して、サクラがピシャリと釘を差す。
その予想が間違いではなかったようで、隣からグッと息をのむのが見えた。

「ん〜?それ以外?」
「ホラ、趣味とか…色々あるじゃない」
「趣味か〜…うん、花とか植物育てるのが好きだってば」
「そういえばアンタの家、いっぱい観葉植物があるものね」

以前ナルトの家に皆で遊びに行った時の情景を思い出してサクラが言う。

「今は何を育ててるんだ?」
「っぱいあるけど、今楽しいのはナスだってば」
「へ〜………野菜嫌いのクセに?」
「うっさいな〜カカシ先生ってば。育ててみたいって思ったってイイじゃんか」
「でも随分手間がかかっちゃうんじゃないの?何か難しそう」
「そうだけど、出来た時にはスッゲエ嬉しいんだってば!!」
「すっかり農家の人と同じ気持ちなんだねェ……」

ナルトの言葉にフーンと感心しながら、今まで知り得なかった面を知り、
それぞれが嬉しそうに微笑む。特に親のように面倒を見ているカカシには
野菜嫌いがそういう方向からでも改善されていく事に嬉しそうだ。

「……それで?カカシ先生は?」
「俺?」
「そうだってばよ、カカシ先生ってば自己紹介ん時、
 名前しか教えてくれてね〜もん」
「そだっけ?」

話題をカカシに振ったにも関わらず、相変わらず飄々とした様子に、
またはぐらかすつもりか、と部下2人の非難の視線が集まる。

「でもセンセ〜の好きなものって言ったら『イチャパラ』しかなさそうだってば」
「あ〜じゃあ聞くまでもないわね〜」

……何だか言う前に話が終わりそうになっている。
相変わらず上司に対する態度は冷たいらしい。

「ん?それ以外にだってちゃんとあるよ?」
「え、そうなの?何何?」

思わせぶりなカカシの言葉に、部下2人は期待の眼差しを向ける。


「……お前等とか、さ」


「「………クサッ!!!」」

「せっかくカッコイイ事言ったのに、お前等それは酷くない!?」

ちょっと遠くを見てカッコイイ口調で言ってみたものの、
返って来た部下のリアクションは、眉間に皺を寄せて何とも嫌そうに吐き捨てられた。
さすがのカカシもこれにはショックだったらしく、ドーーンと沈み込んだ様子で、
2人に背を向けてグスグスと鼻をならしていじけている。





「じゃあさじゃあさ、サクラちゃんは?」

いじけて拗ねるのはいつもの事なので、鬱陶しい大人(酷い)を無視するように、
ナルトは最後であるサクラに質問を投げ掛ける。

「私?そうね〜…好きなものはやっぱり甘いものかしら」
「食べ物以外は?」

以前なら『好きなのはサスケくんです』的発言が飛び出して来ただろうが、
少しは大人っぽくなったのか、変わらない恋心はあるのだろうが、
おおっぴらには言わなくなって来ている。

「食べ物以外?そうね〜、花も好きよ。ふじばかまとか健気でカワイイじゃない」

私みたいで、と続けるサクラに、聞いていたらしいカカシが思わずブッと吹き出して笑っている。
それに殺気のこもった氷のようなキツイ視線を向けると、さすが上忍と言うべきか、
本気の殺意を感じたらしい背中がピタリと笑いを引っ込める。
その横では、1人ナルトが首を傾げて何やら考え込んでいる。

「ナルト?」
「確かにサクラちゃんに花は似合うけど…ふじばかまって感じじゃねってばよ?」

『貴様もか』と言わんばかりの視線がナルトに突き刺さるも、
ナルトはそれを感じ取っていないのか、平然とした様子で見返す。

「サクラちゃんにはさ〜、名前の通り『桜』が似合うと思うけどな〜、
 ピンクだしカワイイし、綺麗だし、皆に慕われてるしさ〜」

ニッコリと微笑むナルトに、カカシは思わず振り返ってキョトンとした表情を浮かべるも、
小さい子に『偉い偉い』と褒めてやるように、よしよしと頭を撫でてやっている。
一方言われたサクラは、その姿に母性本能をくすぐられたのか、
フルフルと身悶えるように体をくねらせたかと思うと、ガバリとナルトに抱きついた。

「あああもう何てイイ子なのアンタは!!!大好きナルトーーーー!!!!!!」
「サッサクラちゃん!?」

顔を真っ赤にして慌てるナルトを尻目に、サクラはナルトをきつく抱き締めて
「アンタはも〜!!」とか叫びつつグリグリと頬ずりを繰り返す。
カカシがそれを『微笑ましい姉弟だね〜』と呟きつつ眺めていると、
先程とは別方向から殺気というかドス黒いオーラが流れて来ていた。
そちらへ視線を向けると。昼食を終えたらしいサスケが
サクラとナルトのやりとりを表面上は穏やかに眺めている。
……あくまで表面上は、であって、その目は写輪眼全開で禍々しい雰囲気を放ち、
万華鏡写輪眼でも開眼しそうな程にギラギラと光っている。

「何?お前も混ざりたいワケ?」

その視線が何を意味するか正確に理解しているカカシは、睨むサスケを
からかうように笑いながらそう言うと、他の2人も気付いたようで
サクラの力が緩まるのをチャンスと見抜き、ナルトがその腕の中から脱出する事に成功する。
間接的にとはいえナルトとサクラがカカシによって離れた事に安堵しつつも、
不機嫌さはまだ収まってはいない様子で、剣呑な空気はいまだ纏いつつ、こちらにやって来る。


「そんなワケねェだろ……休憩終了時間だ、サッサと演習始めようぜ」































演習終わりの帰り道。サスケとナルトの家は途中まで同じ道を通るという事もあり、
その分かれ道まではと一緒に歩いて帰るようになった。
そもそもこうして2人仲良く帰るようになったのも、ナルトが風邪をひいた時に、
サスケが思いあまって告白してしまった一件以来である。
まだナルトから正直な気持ちは聞いていないものの、こうして一緒に帰るようになった事や
時々どちらかの家に行って一緒に夕飯を食べるようになった時に
嬉しそうに微笑んでいるところをみると、まんざらでもなさそうなのだが。

しかし、今日の出来事のような場面を見せつけられると、ナルトはただ好意を向けられる事に
慣れていないだけで、サスケの言う『好き』とは違うのではないか、と不安がよぎる。
特にサスケに関しては、今まで嫌われていると思っていただけに、サスケに『好きだ』と言われ
ようやく仲間意識を持ってくれただけなのではないだろうか。

明確な答えを知りたい、と望むものの、それがサスケの欲しい答えではなかったら…
そう思うと気分が滅入るばかりで、サスケは隣のナルトに気付かれないよう、ふうと溜息を洩らす。

「あのさ、あのさ!!サスケ、お前何か好きなものとかってある?」

ぼんやりと夕陽を眺めて歩いていた隣から、突然質問が投げ掛けられる。

「何だよいきなり」
「や〜、今日昼メシの時に皆でその話になって盛り上がってさ〜、
 サスケはどうなのかな〜?って思ったんだってば。
 ……ホラ、お前自己紹介の時『特にない』って言ってたけど、ホントかよって
 実は思ってたんだってばよ」

サクラちゃんは何が好きで、カカシ先生は〜などと横で話を続けるナルトをよそに、
サスケは何があるか……と真剣に考え込んでいる。

「好きなもの……って言われてもなぁ」
「じゃあさじゃあさ。食べ物で好きなものはないのかってば?」

相変わらず難しい顔で考えているサスケに、ナルトが助け舟を出してやる。

「食べ物……そうだな、トマトとおかかのおむすびが好きだな」

へえ意外、などと答えを返して、ナルトは更に質問を続ける。

「そんじゃあ、花で何か好きなのはないのかってば?」
「花………ねえ」

しばらく考えるように顎に手を当てて、ふとナルトに顔を向ける。

「……………ひまわり」
「ひまわり!?」

思わず言葉に出たものにナルトも驚いているがサスケ自身も驚いた様子を見せる。
……そう、思わずナルトの頭を見て『ひまわり』と呟いてしまったのだ。

「………む、昔な。誕生日近くなると家の近所に咲いてるのを思い出して」

何を言い訳じみた弁解をしているのか、と内心動揺しつつそう言うと、
大して気にした様子もなく『ふ〜ん、何かお前がひまわりって意外だってば』などと
多少失礼ながらもそんな言葉が返って来て、上手く誤魔化せた事に安堵する。

「そう言えばお前の誕生日もうすぐだったんだよな〜、色々知れて嬉しかったってばよ」

分かれ道手前でそう言われ、俺こっちだから!!と走り去る背中にしばらく固まっていたものの、
ようやく言葉を把握出来たようで、真っ赤な顔で何か呟くと、
先程の杞憂が嘘だったかのように上機嫌な様子で帰宅するサスケの姿があったとか。



















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