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「家政夫〜、今日はヴァレンタインだから美味しいもの作ってよね」 遊びに出掛ける準備をしながら、ロタローが家政夫であるリキッドに ニコニコと上機嫌な様子で注文をする。 「ああ……そうか、今日だったっけ」 言われるまで忘れていた様子で、カレンダーを見ながら呟く。 「もうボケが始まったの?その年齢で」 「毒に磨きがかかってきてますねボッチャマ……(涙)」 「ーあ、僕ザッハトルテが食べたいから、用意しといてね〜」 「へいへい」 「それじゃ行って来るぞ〜」 「わうわう〜」 「いってきま〜す!!」 「気を付けて遊んで来るんだぞ〜」 うっすら浮かぶ涙を拭きながら、元気に駆け出して行くちみっこ達を見送ると 青空に向かって腕を伸ばし、背筋をグンと伸ばす。 「う〜〜〜ん、今日も絶好の洗濯日和だな〜〜〜vv」 太陽に向かってそんな事を呟きながら、 家政夫である彼は、今日も家事にとりかかるべく、気合いを入れるのだった。 洗濯物を干し、風に揺れる白いシーツを見ながら、 嬉しそうに額の汗を拭う。 「さて、そろそろ昼だし…ロタロー希望のザッハトルテ作りに励むか!!」 そう言って家の中に入り、再びカレンダーを見て、小さく溜息をつく。 「問題は隊長なんだよなぁ………」 ハーレムの誕生日は本日、2月14日のヴァレンタインデー。 毎回祝うのはイイのだが、いつもヴァレンタインを兼ねて チョコレートケーキにしているので、甘い物が嫌いではないハーレムでも そろそろ飽きが来ようというものだろう。 チョコレート系にするにしても、しないにしても、 どんなものを作ろうかと悩んでしまう。 やはり本人に喜んでもらいたいし、 去年と同じであったり、簡素なものを作ってしまうのは 家政夫としてのプライドが許さない。 「ロタローみたいに何かリクエストがあれば……」 そこで自分の発言にハッと気付く。 「そうだよ……聞けばイイんじゃないか。何で気付かなかったんだろ俺!!」 「バカだな〜、俺」などと呟きながら、ウンウンと納得したように しきりに己の言った事に頷く。 ……先程からアレコレと独り言が多いのはご愛嬌(笑) あれこれ考えながらもザッハトルテの仕込みを終え、 焼き上がりを待つのみの状態になったので、ハーレム隊長に 何が食べたいか聞きに行こう、と出掛けようとして、ふとした違和感に気付く。 普段なら「オラァ〜!!メシ食わせろ〜!!」と扉を蹴り開けて乱入する 元上司の獅子舞が登場する時間帯なのだ。 …しかし、今日に限ってそれがない。 「誕生日だからロッド達にお祝いしてもらってんのかな? …いやあの人の事だから、してもらってると言うより無理に祝わせてんのか」 自分の言葉に映像を想像して、ちょっと過去のトラウマを思い出しかけたが、 頭を振ってそれを追い払い、うるさくないのはイイ事だと思い直して家を出る。 しばらくすると某家を真似た作りの家と、木造の簡素な家が見えて来る。 その内[SHISHIMAI HOUSE]と書かれた家へ向かうと、 何やら慌ただしげな様子で面々が行き来している。 「?どうしたんだロッド」 「あわッ……リッちゃん」 ちょうど前を通りかかった元同僚のロッドに声をかけると、 少し驚いた様子で見返して来る。 硬直して返事を返すのを躊躇っている様子のロッドを見て、 マーカーが近寄って来る。 助かったと言わんばかりの安堵した表情で、ロッドがマーカーを見る。 「??何かあったのか?隊長は?まだ寝てんのか?」 「………どうしよ、マーカーちゃん」 「仕方なかろう」 「??」 何やらリキッドを除外して話を進めている2人に、 2人がらしくなく何を慌てているのか、ますますワケがわからなくなる。 どうやら話は終わったようで、頭を掻きながら困ったようにロッドが口を開く。 「実はさ〜、リッちゃん」 「隊長が風邪をひかれたのだ」 「……………へ?」 マーカーの言葉に、ポカンと空いた口が塞がらない。 「風邪?隊長が??」 「珍しい事もあったもんだよな〜、まさか隊長が風邪ひくなんてさ」 「……まあ、病原菌が逆に逃げそうなイメージだが」 「「確かに」」 事実を受け入れられない様子のリキッドだが、 マーカーの発言にロッドと思わずハモッてしまう。 「それで、頭冷やすタオルとか、船(残骸)から持って来た薬箱とか、 どこ置いてたっけ〜?って探してたワケ」 「ああ……それでバタバタしてたのか」 確かにこの家はゴチャゴチャしていてどこに何があるかわかりにくい。 それというのも、片付けるという事をロクにしないからだ。 過去特戦部隊にいた頃、片付けは主にリキッドがしており、 他の面々が片付けていたのをあまり見た事がない。 たまにマーカーがやるようだが、この家に来てからも やはり自分がやって(やらされて)いたので、彼が片付けた形跡はもちろんなく、 酒瓶やら衣類やら何やらで荒れ放題になっている。 「隊長が風邪ね〜……あの人でもひいたりするんだ」 「ここは熱帯の気候だ、常に高めの気温は、来たばかりの我々には 少し馴染みにくいところがあるし、暑さで体力が奪われる事もある、 それが積もり積もって風邪という症状で出たのではないかと思う」 「なるほど〜」 ともかく片付けないと治るものも治らない、と リキッドが部屋の片付けを始めながら呟くと、 マーカーがその作業を手伝いながら、 今回の事を冷静に分析した結果を伝えて来る。 それに納得した様子で2人の片付けを見ていたロッドは、 即座にマーカーの奥義・蛇炎流で燃やされ、外に捨てられる。 粗方片付いたところで、リキッドはハーレムの容態をみるべく、部屋に向かう。 部屋にはGが付き添っており、ベッドにハーレムは横たわっている。 少し眠っていたようだが、人が入って来た気配で眼を覚ましたらしく、 ボンヤリとした様子でリキッドを見据える。 「隊長、大丈夫スか?」 「………おう」 少し不機嫌な顔をして、力なく受け答えする様子からして、熱が高そうだ。 実際に額に触れてみると、それがより確かなものだと手から伝わってくる。 先程発見した薬箱を開けてみるが、中は怪我の治療に使う物しかない。 「風邪薬は入ってないな…」 「漢方薬があれば良かったのだが…あいにく今は皆飲んでしまってない。 煎じる薬草も…この島に果たしてあるかどうか……」 「これはタケウチくん達に貰うしかないか〜」 リキッドの提案通り、引き続き看病をGに任せて、 マーカーとロッドは漢方を作る為の薬草を分けてもらうか、 それがない場合には風邪薬を貰う為、この島唯一の薬屋のあるサバトの森へ向かう。 リキッドはその薬を飲む為にも、病気を治す体力をつける為にも、 何かを食べないといけないので、材料を取りにパプワハウスへと戻るのだった。 「あれ?家政夫どっか行ってたの?」 ちょうど同じ頃に家へと戻って来たロタロー達が、 家とは別の方向から出て来たリキッドに驚いた様子で声をかける。 「おぅ、お帰り〜。ちょっと隊長ん所までな。 ーあ、そうだ………ちょうど出来上がってる頃だぞ」 「わ〜い、オヤツ〜vv」 仕上げをして出来上がったザッハトルテをちみっこ達に出す。 大喜びの面々をよそに、テキパキと何か作業をするリキッド。 「?何してるんだリキッド」 「ん?ああ、実はハーレム隊長が風邪引いてさ」 「あのオジサンが風邪〜!?ありえな〜〜〜〜い!!」 「明日は嵐だな」 「わうう〜………」 「………ああ、それは俺も思った」 動揺してとんでもない事を言うちみっこ達に 同感の意を示しつつ、荷物を集める。 「ーでさ、あの家何もないだろ?だから何か持って行ってやろうと思って」 「ふ〜ん……………………ねえ、オジサン大丈夫なの………?」 少し心配そうな表情を浮かべるロタローの不器用な優しさに、 ニッコリと微笑みを返してやりながら、代わりに礼を言うように頭を撫でる。 「ちょっと熱はあるみたいだけど、あの隊長だから大丈夫だろ」 「良かった〜」 「でも熱が下がったワケじゃないから、看病してあげたいんだ。だから………」 「んば!!しっかり看病してやれ、リキッド」 「わう」 「パプワ……チャッピー」 「あのオジサンが元気ないとこっちも調子でないしね、 元気になってもらってしっかり恩売っとかないと。 あ、夕飯と朝食の準備さえしといてくれれば、行っていいよ」 「……ロタロー……」 気持ちをくんでくれるパプワに、多少素直ではないが、 遠回しに行けと言ってくれるロタローに嬉しさが溢れる。 だがしかし、ロタローが出した条件は本気だったようで、 夕飯と朝食の準備をさせられるリキッド。 とりあえずあとは温めれば大丈夫なメニューを完成させて、 用意した荷物を手に獅子舞ハウスへと走る。 【次頁 / 戻】 |