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「こりゃあヒデェ嵐だな………」 雨の夜、島の端から海を眺める男が1人。 金に輝く長い髪をなびかせ、水気を含んでいく服をものともせず、 アイスブルーの瞳で荒れる海を睨むようにみつめている。 「このような場所におられましたか」 しばらくすると、細身の男が気配もなく背後に現れる。 金の髪の男はガッシリとした欧米風の顔立ちだが、 現れた男はどちらかと言えば東洋風で、凛とした面持ちだ。 「雨脚が酷くなって参りましたので、戻られませんと…」 「そうだな……そろそろ戻るか」 声だけで相手がわかるのか、振り向きもせず答えると、 相手は短く返答を返し、そのまま霧のように姿を消す。 「おうマーカー、雨が止んだら浜辺を調べとけ」 「………沖に船でも?」 「ああ、あの調子じゃここにお宝が流れてくるかもな」 住処へ戻りながら、姿の見えない相手へと声を投げ掛ける。 マーカーと呼ばれた先程の男が返答を返すと、 男は不敵な笑みをニヤリと浮かべた。 「っひゃ〜〜〜……こりゃヒデェな〜」 「相当の嵐だったようだな…大破している」 「まあ俺達にとっちゃ願ったり叶ったりだけど♪」 翌朝、嵐の過ぎ去った島の海岸には、波が運んで来た物が打ち上げられていた。 その中には、嵐に巻き込まれ転覆したらしい、船の残骸もあり、 昨日の嵐の凄まじさを物語っている。 「……にしても人使い荒いよなぁ〜、イイじゃん別にこんな事しなくてもさぁ」 「宝石でもあれば今後遊んで暮らせるぞ、ロッド」 「Gは前向きだねえ……そんなモンは船と一緒に沈んでるって〜の」 ロッドと呼ばれた軽そうな面持ちの男は、同じくGと呼ばれた無骨そうな男に、 やれやれといった様子で呆れた表情を返しながら、再び残骸回収作業を続ける。 「どうせなら何か腹の足しにでもなる物が落ちてて欲しいもんだねえ…」 「下らない事言ってないで手を動かせ」 「おっ、マーカーちゃんじゃん。そっちはどうだった?」 「めぼしい物は何も。こちらはどうだ」 「船の一部だった木片ばっか」 「そうか………」 様子を見に来たらしいマーカーが、グチをたれるロッドを 冷たい目線と共にいさめつつ、状況を尋ねる。 お互い変わらない様子に溜息を洩らすが、もう1人いたはずの人物が見当たらない。 どこへ行ったのかと2人が周囲を見回すと、浜辺の遠い所で膝をついている。 「おい、G!!何かあったのか〜?」 背を向けていたGに声を掛けると、こちらに振り返る。 その足下には、人らしきものの手が見える。 「!!!」 慌てて2人が駆け寄ると、そこには少年がグッタリと力なく倒れていた。 あの船に乗っていたのだろう、嵐でここに流れ着いたようだ。 「……生きているのか?」 「ああ、先程少し呻いた」 「とりあえず、指示をあおがなきゃいけねェから、俺呼んで来る!!」 ロッドが森に消えてしばらくすると、金の髪の男と共に戻って来る。 倒れている少年の前に膝をついて、他3人を見上げる。 「……流れ着いたのか?」 「そのようです」 「生きてるって?」 「はい」 「………ほぉ〜…………」 体に触れてみると、かすかに鼓動を感じるものの、 拍動は弱々しく、瀕死の状態である事がわかる。 目立った外傷は見当たらないが、海に体温を奪われたらしく、 夏の日差しの下であるにも関わらず、温かさが感じられない。 「…………………………………」 ひまわりのような明るい色と黒の2つの色を持つ髪をいじりながら、 男はしばらく漂流者の顔をじっとみつめる。 浅い呼吸を繰り返す唇は色失い、肌も青白く、死はそこまで迫って来ている。 「………………助けてやるか」 思案の後、面々に一言告げると、男は少年を抱え上げスッと立ち上がる。 そのまま森へ消えて行く背中を、しばらく3人はポカンと見送るが、 ハッと我に返ると、慌ててそれを追いかける。 「ちょ……っマジでそのガキ助けるんスか?」 「おうよ」 「でっでも!!」 「うるせぇ、助けるって決めたんだから文句言うな。 ってかお前等も手伝え」 「っ……はは、はいぃ!!」 「ぅ………ッ」 「おっ、気がついたか」 小さな呻きを洩らして目をゆっくりと開ける少年に、 嬉しそうな声を上げながら金の髪の男が顔を覗き込むと、 海のように美しいマリンブルーの瞳が、ゆっくりと現れる。 パチパチと瞬きを繰り返し、呆然とした表情からして、 少年はいまだ状況を把握出来ていない様子である。 「おい、大丈夫か?」 興味津々な様子で何度も語りかけるも、相手が反応しないので、 注意をこちらに向けようと何度も話し掛けるが、 チラリと視線を向けただけで焦点が定まっていない。 「患者を混乱させるような事はしないでもらえますか」 背後からファイルのような物で頭を叩かれ振り返ると、 白衣を着た男が、呆れた様子で腰に手を当てる。 「っせーなぁ高松。俺が拾ったんだから何してもイイだろ」 「どういう理屈ですか」 高松と呼ばれた白衣の男は、そのまま少年の具合を確かめるべく、 手首を取って脈拍を調べる。 触れられた事で、意識がハッキリとしてきたのか、少年の顔が高松に向けられる。 「あの………」 「どこか痛い所は?」 「いえ、特には……」 「気分どうだ?お前、昨日の嵐でここに流れ着いたんだぜ」 「嵐………!!!そうだ、俺、船に乗ってて!!!」 高松の呼びかけにはボンヤリとしていたものの、 ハーレムの言葉で昨夜の事を思い出したらしく、 ガバリと勢い良く跳ね起きる。 「まだ動いてはいけません…… ハーレム、ここは私に任せて。貴方は出て行って下さい」 ハーレムと呼ばれた金の髪の男は、不服そうにしながらも、 高松の言葉に従い、すごすごと部屋を出て行く。 「すいませんね……やかましくて」 「船、船はどうなったんですか!?」 「さあ……しかしあの嵐では…………」 「そうですか……」 「……今は何も考えず眠りなさい」 ガックリと項垂れた少年の頭を慰めるように撫でてやり、 眠るよううながすと、少年は大人しくそれに従う。 しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきたので、 高松は立ち上がると、そのまま静かに部屋を出て行く。 「どうだ?」 部屋を出ると、そこにはハーレムが立っており、状態を確かめて来る。 「あの子が心配ですか?」 「俺が助けたんだ、死んでもらっちゃ困る」 「もう命に別状はないレベルには回復してますが……ともかく今は衰弱した体を 休める事が重要ですね………話し掛けなければ側にいてあげても構いませんよ」 「おう」 高松の言葉に嬉しそうに答えると、少年の横に座り、 興味深そうにその顔をジロジロと眺めている。 騒ぐ様子がないのを確認して、高松は自分の部屋へ戻るべく、 廊下の奥へと消えて行くのだった。 【次頁 / 戻】 |