圧倒的な力を持ち、覇を唱えんと世界をまたにかける、
殺しに長けた精鋭ばかりを集めた暗殺集団『ガンマ団』
本部のあるこの国では、団員達が慌ただしく訓練や出撃準備に追われている。

そんな中を、ブツブツと文句を言いながらのんびりと歩く少年が1人。
金と黒の髪を揺らし、黒い皮のジャケットを纏う姿は、
軍服を身に着けている周囲とは一線を画している。

それもそのはず、少年ーリキッドの所属する『特戦部隊』は
マジック総帥の弟・ハーレムを隊長とし、独自に行動する部隊で、
特殊能力を有する精鋭中の精鋭で構成されている。
その戦力は凄まじく、『攻撃目標 全破壊』を旨とし、
彼等が上陸した場所は数時間後には跡形も残ってはいない。
それゆえ、『死神』のように恐れられ、団員も近寄っては来ない。



もっとも、今現在、リキッドは不機嫌ですといわんばかりなオーラを漂わせ、
故郷の地で培った族魂全開に周囲を睨め付けつつ歩いているので、
彼の所属部署を知らずとも、近寄ろうなどと思う者はいないのだが。










「しっかしダダッ広い所だよな〜……あんまこない場所だし迷いそうだぜ」

普段特戦部隊は、ハーレム所有の飛行船で各地を飛び回っており、
基本は空の上で行動している為、本部にいる事は数える程しかない。
立ち寄るとすれば給油目的くらいなのだが……

キョロキョロと周囲を見回しつつ、記憶にある目的地へと進む。
ようやく到着したリキッドは、服装を正しつつ、前にあるドアをノックする。

「ドクター、失礼しま〜す」

リキッドがこの本部内で唯一勝手知ったる場所……ドクター高松のいる医務室。
任務で負傷した時、本部が近い場合にはこうして立寄り、治療して貰っている。
相手からの了承を得ずとも入っていいと知っている為、ドアを開けつつ声を掛ける。
すると中には先客がおり、何やら高松と話し込んでいた。

「……あ、スンマセン!!」
「別に構わないよ、大した話をしていたわけじゃないしね」

慌ててドアを閉めようと引き返した背に、柔らかな声がかかる。
振り返るとそこには、黄金の長い髪をもつ、まさに『美貌』という言葉がふさわしい人物がいた。
優しい微笑みをたたえるその顔に、男性とわかっていながらも頬が赤くなるのを抑えられない。
……しかしリキッドは、その人物と容姿も雰囲気も似ても似つかないハズなのに、
何故か自分と近い場所にいる存在の面影を見て、思わず首を傾げる。

「何かご用事ですか、リキッドくん」

ボンヤリとその客人に見蕩れていたせいで、スッカリ用事を忘れていたリキッドに、
この部屋の持ち主である高松が我に返らせるように用向きを尋ねると、
ハッとしたように、小脇に抱えていた箱を高松に手渡す。

「これ、隊長がドクターに渡せって」
「自分が持ってくればいいのに、わざわざリキッドくんを使うとは……
 余程私に会うのが嫌とみえますね」

受け取りながら、意地の悪い笑みを浮かべて笑う高松の横で、
客人がじっとリキッドをみつめている。

「…ああ、君が噂の『リキッドくん』」
「そういえば会った事なかったんでしたね」

何やら感心しているらしい客人と納得している高松に、1人蚊帳の外状態で
事態が把握出来ず、困惑した表情を浮かべるリキッド。
それを見た高松が、隣の人物を紹介する。

「リキッドくん、彼は総帥の弟で、あのハーレムと双子の弟のサービスです」
「初めまして、リキッドくん」


高松が言った言葉を頭の中で整理中…しばらくお待ち下さい。
カシャカシャカシャ……チーーーーーーン


「うぉわえぇェッ!! はっはは初めまして!! 特戦部隊所属のリキッドです!!
 よ…よよよよ宜しくお願い致しますっっっ!!!」
「知ってるよ」

緊張のあまり、ギクシャクとぎこちない動きをしながら敬礼するリキッドに、
そのリアクションの面白さにクスクスと笑いながら挨拶を返す。
相手の身分を知って、急に居心地の悪くなったリキッドは、チラチラと扉を見る。

「そっ…それじゃ俺…用事も済んだんで帰ります。お、お邪魔しました」

意を決して一礼したところで、「待って」とサービスが引き止める。

「どうせまだ兄さんに説教されてるか、食事とシンタローの自慢に付き合わされてるかで、
 当分ハーレムは帰って来れないよ。用事も済んで暇だろ?良かったら話をさせてもらえないかな」

突然の提案に驚きつつサービスを見る。優しい微笑みにNOとは言い難く、
かつ隊長の弟という事もあって興味は非常にある。

「お…俺なんかでイイんですか?」
「うん、ダメかな?」
「サービス様が良ければ、俺は構わないッスけど……」
「では決まりですね」

高松が横から椅子を出して、リキッドに座るよう促す。
そのままどこかへ行ったと思ったら、マグカップに紅茶を入れて戻って来て、
リキッドに手渡してくれる。甘めな香りが少し緊張をほぐしてくれるようだ。

やわらかな日差しの中、昼食前のティータイム。

さすがにサービスと1対1で話すのには心臓がもちそうにないが、
面識のある高松が側にいてくれるので、いくらか気分はマシだ。
さりげない高松の気遣いと美味しいお茶菓子に、表情も緩んで来る。
(その紅茶にナニか入ってないかかなり心配ではあったものの、
 サービスが同じものを平然と飲んでいるので安心した模様)

こうして目の前の美貌の青年をみていると、あの獅子舞と双子と言うのが
嘘のように思えて来る。この青年の優雅な雰囲気を、あの獅子舞に
100分の1でも分けてもらえたら……などと考えて、
優雅なあの獅子舞を想像してゾッとしてしまうリキッド。
ブンブンと頭を振って、その恐ろしい想像を振り払う。

「それで?あのナマハゲは何で帰って来たの?よりにもよってこんな日に」
「えっと…総帥直々の帰還命令が出されたんだそうッス。
 隊長は『無視するとウルサイから』って本部へ…」
「そういうところだけは双子ですね」
「うるさいよ高松」

心底楽しそうに笑いながら言う高松に、ピシャリとサービスが視線と共に静止する。

「じゃ…じゃあサービス様も?」
「そう。せっかくの誕生日だし、たまには兄弟揃ってっていうのもいいかなって」
「ええっ、今日お誕生日なんですか!?おめでとうございます!!」

驚きつつも祝いの言葉を言うリキッドに「有難う」と言いつつも、
揃ってキョトンとした表情を浮かべる2人。

「? 知らなかったんですか?」
「すっ、すいません…ガンマ団の事全然知らなくて…」
「そうじゃなくて」
「? 何スか?」
「サービスが誕生日って事は、双子の兄である君の上司もそうだって事ですよ」
「!! それで皆ソワソワしてたのか……」

今朝の事を思い出してようやく納得いった様子のリキッドに、
本当に知らなかったのだと理解しつつ、あの破天荒なナマハゲがその事を
知らせていなかった事実に、顔を見合わせ思わせぶりにニヤリと笑う。
その横では、何も用意していない(むしろ給料10円では何も出来ないが)自分に焦り、
「どうしよう…」と呟いてない頭を必死に回転させている。

「…このままじゃ拷問スルコースがプレゼントになっちまう………(汗)」

比較的まだ新しい記憶がまざまざと蘇り、顔面蒼白にさせて絶望感に浸るリキッドに、
何となく面白くないものを感じてサービスが声をかける。

「何なら、手伝ってあげようか?」
「ええっ!!! そそそんな!! サービス様の手を煩わせるワケにはいかないッス!!」
「でもじゃなきゃ拷問スルコースだよ」
「ぅぐッ……それはそうなんですけど……」

本当なら助けを乞いたいところではあるけれども、相手は上司の弟。
しかもガンマ団トップ・総帥の弟でもある。
そんな高貴な人に、下っ端中の下っ端の自分の手伝いをしてもらおうなど
恐れ多く申し訳なさ過ぎて頼めるハズもない。

「いいじゃないですか、手伝ってもらえば」

その葛藤を横で呑気に紅茶をすすりながら見ていた高松が、
サラリと助け舟を出す。

「でっ……でも!!」
「どうせ暇潰ししたいだけでしょうし、君もハーレムのイジメから救われるんですから、
 一石二鳥じゃないですか」
「それはそうなんスけど……」
「じゃあ決まりだね」

リキッドが渋っているのを何とも思わないように優雅に立ち上がると、その手掴んでドアへ向かう。
そこで何かを思いついたらしく、高松に向かってクルリと、これまた優雅に振り返る。

「そうそう高松。あのナマハゲがあと1時間後くらいにここへリキッドくんを探しに来るだろうから、
 ……そうだね、2〜3時間眠らせてあげてくれるかな」
「はいはい」

聞こえによっては兄想いの弟の言葉だが、高松に頼むという事でこの言葉には『ウラ』が出て来る。
……横で聞いているリキッドには特戦での経験上、嫌と言う程それが理解出来て、
横で『やっぱり兄弟なんだな』などと考えていた。

「あと、これで借りを作ったけど、貸した4万円はキッチリ返してもらうから」
「………絶対返しません」
「それじゃあ行こうか、リキッドくん」
「はっ、はい!!宜しくお願いします!!それから…有難うございます!!」

深々と頭を下げる姿は、緊張しているものの、先程とはうって変わって嬉しそうに微笑んでいる。
その顔を見て、サービスは思わず手を伸ばし、ポフプフと頭を撫で、先へ進んで行く。
それに驚いたリキッドは、恥ずかしそうに俯きつつ、サービスの後をチョコチョコとついて行った。

出て行く2人の背を見送りながら、高松は先程のサービスの行動を思い出し、
ニヤつく口元を抑えられないでいた。

「やっぱり双子ですね〜……好みまで似るもんなんでしょうか?」

























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