「……ったく高松の野郎…!!」

ようやくマジックから解放され、飛行船に戻ってサッサとこの場から
退散しようとしたのだが、高松に使いを出したリキッドがまだ戻らないらしい。
お人好しな少年の事だ、また何か高松の実験台になっているのではと
嫌な予感を感じながら、回収すべく医務室へ向かうと、そこにリキッドの姿はなかった。
「どこに行った」と尋ねる間もなく、新開発だとかいう(何に使えるのかは不明だが)
スプレーを吹きかけられ、不覚にも昏倒してしまったのだった。

眼を覚ますと側に高松はおらず、代わりに
『リキッドくんは預かった。返して欲しければ総帥まで』
…という脅迫なのか案内なのかよくわからない書き置きが残されていた。

とりあえずリキッドを置いて行くわけにもいかないので、
高松に従うのは非常に不本意だが、仕方なく文字に従う事にしたのである。
そして現在、その総帥のいる部屋に再び向かっているのだ。


「さっきまで散々下らねェ話をされた兄貴の部屋に、何でまた行かなきゃならねんだ…
 チクショー、リキッドの奴…帰ったら拷問フルコースにしてやる」

などと、リキッドの予想を裏切らないがそら恐ろしい事を、半ば逆恨み状態で
ブツブツと呟いている内に、部屋に到着した。

「よう兄貴、邪魔するぜ〜」
「何だ、やはり夕食を食べて行くのか?」

再び戻って来た弟に少し驚きながら、キョロキョロと部屋を見回して
何かを探しているらしき姿を眼で追う。

「んなワケねェだろ。それよか兄貴、リキッドどこ隠したんだ?」
「リキッドくん?……ああ、新しく来たっていう。その子が何だって?」
「オイオイとぼけんなよ、ここにいるって聞いたぜ?
 帰れねェから出してくれ」
「? ここに?その子が?」
「…………?」

心底不思議そうな表情で逆にハーレムを質問攻めにするマジックに、
自分と全く会話がかみ合っていない事にようやく気付く。

すると後ろの扉が開き、サービスが給仕を伴って中へ入って来た。

「お帰りサービス」
「ただいま、兄さん。一緒にお茶でもしようかと思って美味しい紅茶を持って来たんだけど」
「いいね、ティータイムといこうか」

和やかに進む兄とは違い、もう片方の兄は険悪な空気を漂わせる。
ピリピリとしたものが漂うも、長男はどこ吹く風でのほほんとしている。

「……テメェ、何でここにいやがんだよ」
「多分同じ理由だと思うよ」
「何もこの魔女まで呼ぶ事ぁねェだろ」
「僕だってこんなナマハゲと一緒にいたくないんだけど」
「まあまあ落ち着け2人共、せっかく久し振りに兄弟揃ったんだから」

嬉しそうにニコニコして言うマジックに何も言えなくなり、
2人は睨み合うのをやめ、それぞれ離れたソファーにドカリと腰掛ける。
すると見計らっていたように、ちょうどイイタイミングで、
それぞれの前に紅茶のカップが置かれて行く。

「……どうぞ」

そう言ってハーレムの前に置かれたティーカップを見ながら、
どこかで聞いたような声だと思いながら、側を離れる給仕をふと何気なく見上げる。

「…!! 何やってんだこんな所で」
「…………………………………」

視線の先には、トレイをきつく抱き締めたまま、
顔を反らした姿勢で固まるリキッドがいた。
給仕の衣装を着て、いつものオールバックではなく髪を下ろしているので気付かなかったが
金と黒の髪を持つ人間は、このガンマ団にもそうそういない。

「今頃気付いたの?そろそろボケて来たんじゃない?」
「双子なんだから一緒だっつの。それよりリキッド…お前何でここにいんだ」
「えっと……その…」
「それは後でいいから。せっかくの美味しい紅茶が冷めてしまうよ」

睨むハーレムにあわあわと困惑するリキッドを見遣って、
何か理由があると悟ったマジックは、とりあえずハーレムを宥めて強引に話を進める。
ハーレムもマジックの意見にとりあえず従ったものの、答えない部下に
心底不機嫌そうな顔で、リキッドを見続けている。

「………リキッドくん、あれを」

空気をまるで読まないようなタイミングで、サービスがリキッドを促す。
有無を言わさぬような口調だったので、泣きそうになりながらも、
リキッドは用意した皿を運んで、各々の所へ運ぶ。

「おや、アップルパイだね。いい香りだ…」

出された皿を見て、マジックがやわらかに微笑む。

「そういえば昔、よく作ってあげてたね」

紅茶を飲みながら、それに秘められた思い出にゆったりと浸る。

「これはサービスが作ったのかい?」
「よく手伝ってたからレシピはもう頭に入ってるんだけど…
 実はこれ、僕のレシピを元に、リキッドくんが作ってくれたんだ。
 僕らの誕生日プレゼントとバレンタインを兼ねてって事でね」
「お…お口に合えばいいのですが……っ」

目線を合わさないように(ハーレムに睨まれないように)俯いて
サービスの後ろで控えつつ、皆の反応を待つ。
ハーレムは『何を企んでいる』という眼でサービスを睨むも、
相手はサラリと何事もないようにかわす。
その横では、マジックが鑑賞を終え、いよいよ一口食べようとしていた。

「うん…とても美味しいよ」
「……!!」
「リキッドくん…だったかな」
「は、はい」
「私達の為に頑張ってくれて嬉しいよ。有難う」
「いえっ…そんな!! 光栄です!!」

ニッコリ微笑みながら言われた言葉に、リキッドは嬉しくなって
堅かった表情をぱあっとほころばせる。
そんな非常に可愛らしい少年に、心がほんわかと優しくなる思いがする。

「ハーレムも何か言ってあげれば?」
「………ッせェな」

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、話を振って来るサービスに
イライラした気分を更に膨れ上がらせながら、豪快にパイを掴んで口に放り込む。
向かいの後ろ側では、その気迫に怯えつつも、心配そうにリキッドがこちらを伺っている。

「……美味ェじゃねェか。ロクに料理した事のねェお前にしては上出来だぜリキッド」
「っ……!!」

パッと表情を変え、機嫌良さ気に言うハーレムの反応に、
リキッドがホッとしたように肩の力を抜き、華のような笑顔を浮かべた。
そのやりとりを見ていたマジックとサービスは、何かを感じたらしく顔を見合わせる。
それを見ていたハーレムには2人がいわんとしている事が理解出来たらしく、
チッと舌打ちをしながらリキッドをこちらに呼び寄せる。

「…だからここに連れて来るのは嫌だったんだよ」

隣に来るように促すと、その腕を掴むと、グッと引っ張って来るので、
リキッドは声を上げる間もなくその胸元に抱き寄せられてしまう。

「コイツは俺ンだからな。兄貴にも、お前にもやらねェぜ?」
「たッ……隊長!?」

首に腕を回して頭を顔の横に寄せると、そのつむじにキスをして、
そういう意味合いだと言う事を2人にわからせる。
……リキッドに伝わっているかは定かではないが。
一方言われたサービスは、既にわかっていたのか大して表情を変えるでもなく、
ふうんと返しただけだが、マジックは少し驚いた様子を見せたものの、
父親のように優しく微笑んで、そうかと短く返した。

「……そんじゃ、もう用はねェし、帰るぞリキッド」
「はは、はい!!」

ハーレムは満足したように立ち上がると、リキッドの襟首を掴んで引き摺って行く。
動くと首が絞まるからなのか、抵抗しても無駄だと知っているのか、
リキッドは大人しくそのままの姿勢でいる。

「マジック総帥、(こんな格好ですいませんが)失礼致します。
 サービス様、本当に色々有難うございました〜!!」

深々と頭を下げつつ、(襟が閉まっているのであまり下げられないが)ドアへ向かう。

「またここに来る時は一緒にお茶においで」
「楽しかったよ、リキッドくん」
「バッカテメェ、兄貴には構わねェけど、あの魔女に言う必要はねェだろ!!」

見送る2人をよそに、ハーレムの叫びがドアの向こうへ進むにつれ、フェイドアウトしていく。















いい加減引き摺り飽きた(それもどうかと思うが)らしく、リキッドを立たせつつ、
飛行船へ向かうべくコツコツと足音を響かせながら廊下を進む。

「……しっかし、お前を連れて帰るだけのハズが、色々面倒な事になっちまったなァ……」
「す、すいません……」

フーッと溜息と共に煙草の煙を吐いて言うハーレムに、肩を縮こませながら、
申し訳なさそうにリキッドが答える。

「ーにしても、高松だけでなく、あの魔女と組んで俺をハメるとはな〜……
 一体どうやったんだ?」

心底不思議そうに言う相手に、キョトンとした表情を返す。

「いえ…別にこれといった事は。ただ、今日隊長誕生日だったそうじゃないスか、
 お祝いしたくても(アンタがホイミにつぎ込むせいで)俺金ないし、
 でも何かプレゼントあげないと拷問フルコースだなって……あ(汗)
「ほ〜〜〜〜〜〜う?」

ベラベラといらぬ事まで喋ってしまって、上司がニヤニヤ笑うのに気付き、
失言だったと気付くが、事既に遅し。
肩に腕が回され、ニヤリと笑った口から蛇のような舌が伸びて来て、逃げ場を奪われる。

「そうか〜…そんなにリッちゃんはお仕置きされたかったのか〜」
「だ、誰もそんな事言ってねェだろ!?」
「俺様を出し抜こうとした罪は、お仕置きに値する」
「そんなつもりじゃなく、ただ祝いたかっただけですって!!」

必死に言い訳するリキッドに、先程の味を思い出して、ふむと考え込む。

「……まあ確かに美味かった。だからチョップで勘弁してやろう」
「それのどこが『勘弁』なんスか!?」
「オラ、歯ァ食いしばれ?」

壁に身体を押し付けられて、目の前の相手が構えを取る。
次に来る衝撃に耐えるべく、ギュッと眼をつぶって身体を強張らせるも、
一向にその衝撃はやって来ない。
まだかと強張りを解いて眼を開けようとした瞬間に、
唇に柔らかいものが触れ、驚いて眼を開けると、
そこには画面めいっぱいにハーレムの顔があった。

「………!!!???」

ビクリとリキッドが反応したのを感じて、ハーレムが少しリキッドと距離を置く。
その間に、リキッドは壁にベッタリとひっついて、今起こった事実を必死に整理する。

「なッ……な……っ!!!」

ようやく理解出来、口元を押さえながら、何とか抗議しようとするが、
上手く言葉になってくれず、ひたすら口をパクパクさせているしかない。

「前にファーストキスはまだだっつっつてたよな。
 俺様の誕生日プレゼントに、ついでに頂いとくわ。サンキューリッちゃんv」

再びチュッと軽く唇に触れると、してやったりというように楽しそうに笑いながら
ドスドスと廊下を進んで行ってしまう。
残されたリキッドはいまだショックから立ち直れず、わなわなと震えながら
混乱で上手く回らない頭で状況を把握しようと件名に回転させるが、
やはり導き出される言葉は1つで。


「あ……あんまりだ、こんなの……………」


真っ赤な顔でいるのが全ての答えなのだが、今のリキッドには
それを理解する事も余裕もなく、ただひたすら立ち尽くすのだった。

























おまけ。
「ふ〜ん、そんな事がねェ」
「あんまりだと思わねェか!?ロッド〜……(涙)」
「そういえば、リンゴの花言葉って知ってる?リッちゃん」
「?」
「『誘惑』っていうんだぜ〜……ホラ、アダムとイヴが食べたのもリンゴだったろ?
 あれからきてるらしいんだわ。って事は……ククッ、大胆な事したなリッちゃん!!!(笑)」
「………!!!(汗)」




























遅ればせながら……ハーレム隊長誕生日おめでとうございます!!
出番あんまなかった気がしますけど、最後はオイシイところ持ってったから
…………イイよね?(汗)

一応特戦部隊時代のお話ですけども、嘘めいっぱい(笑)
マジック総帥と美貌の叔父様(サービス)がこの時の口調よくわかんないのに
いっぱい出て来てしまいました……(汗)
それにヤケにリキッドに優しい周囲になってしまいました(汗)
別人&ねつ造ばっかでゴメンナサイ……(土下座)
ちなみに、叔父様がリキッドに親切なのは、何となくリキッドの中に
チ…いや(笑)ジャンを見ているからだと解釈してやって下さい。
って言っても同じ『犬』属性なので気に入ってるって事ですよ?(笑)

そしてタイトルですが、これもリンゴの花言葉です。
他に『最も美しい人へ』『導かれるままに』などがあります。
これに関してリキッドイジりをしようかとも考えましたがやめました。
……リキッド誕生日の方でイジりたいと思います(笑)

隊長、末永くリキッドとお幸せにv(笑)




























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