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「リッちゃ〜〜ん!!土産持ってきたんで開けてくれんかのォ〜?」 毎度のごとく地響きのような足音を立ててやって来たのは、 心戦組 十番隊隊長・原田ウマ子だ。 パプワハウスの中では、その声を聞いて震え上がる人物が1名―勿論リキッドだ。 しかし、いつもは蹴破ってでも入って来るというのに、 珍しくリキッドに頼んでくる事に疑問を抱きつつ、 何かあったのかとお人好しなリキッドは、素直にそのドアを開ける。 「な、何だこのバカデカイのは!?」 扉を開けてみると、ウマ子の巨体だけでも充分デカイのに、 それをさらに上回る巨大なものが横たわっていた。 「うわ〜……ホントに大きいや…パプワくん、これ何?」 「おお、これは青森県大間の皆さんもビックリなホンマグロだな〜!!」 「わう〜!!」 叫びを聞いて家の中からコタロー達も出て来て、巨大な物を見上げる。 リキッドと並べても大きいのに、ちみっこ達が並ぶと、彼等が小人のように見える。 「熊ばかりでは栄養が偏ってしまうからのう、たまには違う物をと思って 海を泳いどったら、男前な魚がおったんでな、格闘の末この腕で獲得したというワケじゃ」 「海中戦!?一本釣りとかじゃなく素手!?(汗)」 誇らしげにムッキリと腕の筋肉を盛り上げて見せるウマ子に、リキッドはツッコミを入れずにはおれない。 海中で銛も持たず、巨大マグロを仕留めるウマ子……想像してしまって頭をブンブンと振る。 「さすがだねウマ子ちゃん!!」 「見事!!」 「いや〜、ワシのマーメイドっぷりをリッちゃんにも見せたかったのう」 「……マーマン(半魚人)の間違いじゃないのか」 褒め讃えるちみっこをよそに、まだその壮絶な姿(想像)を拭いきれずゾッとしているリキッドだが、 ツッコミを入れる事は忘れない。 「こんな大きいの……売ったら相当なお金になるよね……」 マグロに関してのうんちくをパプワから聞き、その金銭的価値の凄まじさに 目をギラギラと輝かせているコタロー………やはり青っこである。 「さすがコタロー、商売人の鑑だな」 「う〜んでも、こんな大きいとどんな味がするんだろ……」 青っこでもやはり子供、食欲には勝てないようで、目の前の塊にゴクリと喉を鳴らす。 それにニッコリと微笑みながら、リキッドはエプロンを身に纏う。 「これだけデカいんだし、島の皆呼んで一緒に食べるか」 「わ〜い賛成〜!!今日はマグロパーティーだ〜!!」 「んば!!」 「わう〜〜〜」 はしゃぐちみっこ達を嬉しそうに眺めながら、ハッと何か思い出した様子で 横で同じように微笑んでいるウマ子を見る。 「あのさ、悪いんだけどトシさん呼んできてくれるか? あの人和食得意だし、魚さばくのも得意だって言ってたから。 それに手伝ってもらわないと間に合いそうにねェし。 ……あと、大きめの鍋も貸してくれると有り難いけど」 「他でもないリッちゃんの頼みじゃ、まかしとき!!」 「リッちゃんが〜〜〜〜という事でアンタの手助けを必要としとるんじゃ」 「リキッドが!?よーーーーーーーし任せろーーーーーー!!」 隣がヤケに慌ただしく、バタバタと走り回る音が聞こえる。 その音に眉をしかめ、遅い目覚めを迎えるハーレム。 「んだァ?何か外がウルセェな………」 「何でもパプワハウスでマグロパーティーがあるそうですよ」 ボリボリと頭を掻きながらやってきたハーレムにコーヒーを出しながら、 マーカーは先程聞いた情報をハーレムに伝える。 「マグロパーティーだ?」 「そうッスよ〜、さっきちみっこたちからご招待受けましたし」 「何でもデカイマグロを手に入れたのだそうですよ」 マグロねえ…と言いながら、呆れた様子でコーヒーをすする。 のんびりとしたシシマイハウスの横では、相変わらず慌ただしい。 ウマ子が何やらリキッドがどうのと喚いている。 それに何となく面白くないものを感じつつコーヒーを飲み干すと、 ゆっくりと立ち上がって家を出て行く。 「そんじゃ、そのデケェマグロってのを拝みに行ってきますか〜」 「さすがトシさん、見事な刀さばきですね!!」 「有難よ……しかし、デカイ魚だなこりゃ」 あまりの大きさに包丁では捌ききれず、仕方なく愛刀でマグロを解体するトシゾー。 その見事さに賞賛の声を上げると、トシゾーは照れ臭そうに笑う。 何とか各部位に分けて解体を済ませ、調理を開始する。 「原田、鍋持って来てくれたか」 「これでどうじゃろうか?」 「ちょうどイイんじゃないか? ウチのじゃ小さいんじゃないかと思って 持って来てもらって正解だったな……有難な、ウマ子」 「リッちゃん……!!!」 「じゃあ原田、その鍋をここへ」 ウマ子に微笑むリキッドと、感動にむせぶウマ子、2人の世界を作らせるか、と 密かに邪魔をするトシゾーに、ウマ子は気にした様子もなく指示に従う。 …ちなみにリキッドは料理の事に関するならウマ子であっても普通に接するようだ。 ………主夫魂は、襲われる恐怖をも越える(笑) 「それじゃ後は俺達に任せておけ、ご苦労だったな原田」 「お疲れさん、ウマ子〜」 「アンタ、御法度な事をリッちゃんにしたら許さんぞ!!」 「……ッするか!!!」 鍋のセッティングが終わると、ウマ子の用事はなくなるので、 トシゾーはさっさと追っ払うべくウマ子に声を掛ける。 ウマ子はウマ子で引き際をわきまえているのか、リキッドの邪魔になると思い しぶしぶながらもパプワハウスを後にする。 「トシさん、この鍋で『兜煮』するんだろ?」 「ああ」 「俺やった事ないから教えてくれるかな?」 「おう、何でも聞いてくれ」 トシゾーもリキッドに触発されたのか、元々そうだったのか、 2人きりという本人としては非常に嬉しい環境なのにも関わらず、黙々と調理を続ける。 会話するにしても料理に関する質問や連絡のみで、2人が醸し出すその雰囲気は プロフェッショナルな職人といったところ。 ―――――主夫2人組、誕生。 「なる程、こういう味付けなんだ」 「ああ、しかもこれを入れるとより味がまろやかになって……」 「へ〜、それは意外!!参考になるな〜」 和風料理のレクチャーをトシゾーから受けるリキッドは非常に楽しそうで。 こうして料理の話で盛り上がれる相手がいるというのは、 本人にとって嬉しい事なのだろう。 「リキッドく〜んまだ〜?」 「まだ〜?」 その合間に、胸キュンアニマルズことエグチくんとナカムラくんが 構ってといわんばかりにリキッドに飛びかかって来る。 「ごめんな、まだもうちょっとかかりそうなんだ。だからロタロー達と遊んでてもらえるか?」 「早くしてね〜、お腹ペコペコだよ〜」 「ペコペコー」 それを嬉しそうに受け止めながら謝ると、2匹はぷうっとふくれながらも 言葉に従ってコタロー達の元へ駆けて行く。 その途中で、アニマルズは樹にもたれて煙草をふかしている人物を発見する。 「あれ〜?おじさんもお手伝いに来たの〜?」 「来たの〜?」 「んなワケねェだろ?ちょっとからかいにな」 「リキッドくん、いじめちゃダメだよ?」 「そうだよ〜」 「……わぁってるよ」 「……ん?」 近くでアニマルズの話し声が聞こえたので首を巡らせると、 ハーレムが煙草をもみ消し、こちらにやって来るのをみつける。 「ゲッ……隊長」 あからさまに嫌そうな表情を浮かべるリキッドをチラリと見ただけで、 周囲に置かれたマグロの塊に興味を引かれているのか、特に近寄るつもりはないらしい。 「……メシはないですから」 「わあってる。マグロパーティーだろ?」 「ええ、島の皆呼んでますんで、隊長も来て下さいね」 だから今ご飯を要求されても出している余裕はないからたかるな、と心の中で願いながら、 ひきつった笑みを浮かべつつそう言うと、煙草を取り出して火をつけるでもなくくわえながら背を向ける。 「……おう」 邪魔したな、と短く告げて立ち去るハーレムを見送りながら、 返事の素っ気なさも気になるが、何となくいつもと違う様子に、首を傾げる。 しかし、今は料理に集中せねばとそれについて考える事はやめた。 「お帰りなさいませ」 シシマイハウスに戻ると、マーカーが恭しくハーレムを迎える。 それに曖昧な返事をするとサッサと自室に引っ込んでしまう。 マーカーが首を傾げていると、ロッドがやってきてズカズカと部屋へ入って行く。 「あれ?隊長リッちゃんのとこ行ったんじゃなかったんスか?どうでした、マグロ、デカかったッスか?」 勝手知ったる様子であれこれ聞き出そうと背中を向けるハーレムの肩を揺すると、 射殺されそうな程の鋭く冷たい目でギロリと睨まれる。 これ以上何か言えば間違いなく『眼魔砲』の餌食なので、滝のような汗を流しつつ、 無言のまま後ずさりするように部屋を去る。 「何あれ、何であんな機嫌悪いんだ隊長」 「パプワハウスで何かあったのだろうか」 ヒソヒソと部屋の前で2人が喋っていると、バンッとドアが開いて 不機嫌オーラ全開のハーレムが鬼のような形相で現れる。 「っせェなテメェら………リキッドの手伝いでもして来い!!」 悲鳴を上げる間もなくシシマイハウスから叩き出され、 互いに目を見合わせて溜息を洩らしつつも、仕方なく歩き出すのだった。 |