主の消滅と共に爆発し、崩壊していく巨大飛行艇
その中を走り抜けていく3つの人影ー

「急げ!緊急脱出用のヘリはこの先だ!」

金の長い髪を、天にさえ挑むように立たせた端正な顔の男─二階堂紅丸─が叫ぶ。
その後に続くようにして、漆黒の髪を持つ生意気そうな青年─草薙京─と、
血のように赤い髪の男─八神庵─が駆け抜けていく。

「あれだ!!」

長い通路を抜けた広い空間に、ズラリと並ぶヘリ。
崩壊の進行によって見るも無惨な姿になったものが多かったが、
それらに守られるように2,3機が無事で残っている。
3人は瓦礫を避けつつそれに向かって走る。

「──!!避けろ、京!!」
殿にいた庵が、前を走る京に向かって叫ぶ。
「─え!?」
その声に反応して振り向いた瞬間、世界は闇に呑まれていった──





































落下してきた瓦礫が頭に直撃し、意識を失った京を抱え、辛くも無事脱出に成功した庵と紅丸。
京はすぐ病院へと搬送され、検査を受けたが、
幸い怪我は大事に至る程ではなく、処置を受ければすぐにでも退院できる──はずだった。
だが不運な事に、脳が極度のショック状態を起こしており、意識がまだ戻らないでいる。


病室のベッドに移され、見た目には穏やかな表情で眠る京。
それを傍らで呆然と見下ろしながら、庵はゆっくりと手を伸ばす。
頬を撫でると、暖かい体温と心地よい感触が手に返って来て、改めて生きているのだと確認する。
そのまま上にあがって頭を撫でようとした先に、巻かれた包帯をみつけ、思わず手を止める。
数時間前に見た、血にまみれた蒼白な顔や、力なくダラリとした姿がフラッシュバックのように脳裏を掠めていく。
それを振り払うように一つ溜息を洩らすと、後方の扉が開いた。

「─まるで『スリーピングビューティー(眠れる森の美女)』だな」

そう軽口を叩きながら入って来る紅丸を睨もうと振り返ると、その顔は悲しげに沈んでいる。
そんな姿に睨む気力も失せてしまった庵は、近くにあったパイプ椅子を組み立て始める。
「……ならば俺はさしずめ、こいつの目を覚まさせる王子様、といったところか」
思わぬ庵からの返答に目を丸くする紅丸は、自分に気を使ってくれたのだと気付き、薄く微笑む。
「バカ言うな、王子は俺。お前なんて良く言っても魔女だよ」
虚ろで乾いた笑いが洩らしながら、トンと庵の肩を叩く。


そうしてまた沈黙と、京の静かな寝息だけが支配していく病室。
重い空気が漂う中、2人共何も語らず、京の意識が戻る瞬間を見逃すまいと、
ただひたすらに、祈るように京をみつめる。




「………変な事、考えるなよ」
壁に背を預けていた紅丸が、重い沈黙を引き裂くように言う。
「どういう意味だ」
ギロリと庵が睨むのを避けもせず真正面から受けながら、困ったような表情で頭を掻く。
「京がこうなったのは、自分が声を掛けたせいだ、とか考えてるんだろ?」
付き合い長いからそれくらいはわかるぜ、と苦笑しながら語る。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「あの時お前が声掛けてなきゃ、京は間違いなく死んでた」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「だから変な自責の念にとらわれんなよ」

「────────────」
肩に置かれた紅丸の手を、しばらく無言でみつめていた庵だったが、
フン、と鼻先で笑うとその手を払う。
「…お前に慰められるとは、俺もヤキが回ったな」
そう言いながらニヤリと笑う庵に、紅丸もようやく微笑みを見せる。
「……ホンットムカツくな、お前」







2人がそんなやりとりをしていると、すぐ横で眠っていた京の口から、
寝息とは違う僅かな音が洩れる。
「……京?」
「………ぅ……」
意識の戻りが近いのか、話し掛けた庵の声に、かすかに眉を寄せる。
「俺、先生呼んで来る」
紅丸が慌てて出ていくのを見送って、もう一度呼び掛けてみる。

すると今度は瞼がピクピクと反応し、深く眉を寄せると、ゆっくりと京が眼を開ける。
その様子に内心密かに安堵しながら、京の様子を見守る。
京は状況を把握しようとしているのか、眼だけで部屋中を見回して、最後に隣にいた庵をみつめる。
「気分はどうだ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
気遣うように微笑む庵を見ながら、呆然と何度も瞬きを繰返す京に違和感を感じ、眉をひそめる。


「──京?」





































「あのさ……悪いんだけど…………」













































         「アンタ………誰だ?」




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