昔々、遠い国のある美しいお城に、1人の皇子がいました。
彼は裕福な暮らしと、その絶大な権力によって手に入れられないものはなく、
そのせいで皇子は傲慢になり、自分こそが全てだと
誰も信じなくなってしまいました。

そんなある日、一夜の宿を貸して欲しいと、
貧しい身なりの老婆が城にやってきました。
しかし皇子はその願いを無下に断り、
あまつさえ「城の宝を狙う者」として捕らえようとしました。


その瞬間、醜かった老婆は美しい魔法使いに姿を変えました。

そして傲慢で優しさを忘れた皇子に罰として呪いをかけ、
その姿を恐ろしい魔獣へと変え、さらに城にも強力な魔法をかけました。
たちまち城は禍々しいものとなり、家来達も様々な動物に変えられました。


この呪いを解く為には、皇子が誰かを心から愛し、
そしてその相手からも愛されるようにならなければいけないのです。
でなければ、皇子は獣の姿のまま、永劫の時を過ごす事になるのです。





やがて国は滅び、城や皇子達の存在が忘れられる程の永い年月を経ても、
呪いは解ける事はなく、
絶望し、己の姿を忌み蔑んだ皇子は、城内にこもるようになりました。

外の世界を知る事が出来るのは、魔法使いが残した鏡だけ。
己の姿を晒す事なく様々な世界を見、事柄を知る。
それだけが皇子の唯一の楽しみでした。


果たして、獣となった皇子の呪いが解ける日は来るのでしょうか……?
































「はい、このお話はここでおしまいだ。もう寝なさい」
「は〜い」

大人しくベッドへ潜る弟の頭を優しく撫でながら、
兄は先程まで読んでいた物語の本を閉じる。
眠ったと思っていた弟は、何か言いたそうにじっとこちらを見ている。

「……なあ、兄ちゃん」
「何だ?」
「そのお話の皇子様って……ホントにいんのかな?」
「そうだなぁ…もしかしたら本当にいるかもしれないな」
「ホントだったら……会ってみたいなぁ……」

キラキラと目を輝かせて言う幼い弟に、クスクスと楽しそうに笑う。

「お前は本当に『冒険』とかこういうお話が好きだなぁ」
「うん!!大きくなったら、俺冒険家になりたいんだ!!」
「その為にはしっかり寝て、大きくならなくちゃな」

少し困ったように笑う兄にたしなめるように頭をポフポフと叩かれ、
眠るよう促される。

「そだな!!じゃ、お休みなさい、蒼司兄ちゃん」
「お休み、京」













































それから十数年の月日が流れ――――――――

幼かった京は逞しく美しい青年へと成長した。

「おはよう、おじさん」
「やあ、おはよう 京。朝飯の買い物帰りか?」
「うん」
「気を付けてな〜、兄さんによろしく」
「おう、ありがと〜!!」

村の中を駆けて行く京に、すれ違う人々が皆口々に声を掛けてくる。
それに朗らかな笑顔で応えながら、家に向かう。
口調や性格に多少荒っぽいところもあるが、整った顔立で心優しい青年に、
村の誰もが彼に好意を寄せており、京は村の人気者なのである。
また、京も幼くして両親を失った自分達兄弟に
優しく接してくれる村人達が大好きだった。



「おはよ、兄貴。朝飯出来てるよ」
「おう、いつも有難うな 京」

作業場から汗を拭いつつ出て来た兄・蒼司に告げると、
にっこりと微笑みを返しながら頭を撫でてくれる。
兄の手は鍛冶職人だけあって無骨だがとても温かく、
京はそれをとても誇りに思っている。

兄の作る農具は長持ちすると村人達の間でもとても評判で、
装飾品として作られる剣もとても美しかった。
兄はそれらを村や街で売って、生活の糧としてくれている。

「それじゃあ街へ行って来る。2〜3日で戻るから、留守番を頼む」
「おう、任しとけ!! あ…そうだ兄貴。
 ここんとこ森に近い道沿いで狼が出るらしいから、気をつけろよ」
「わかった」















「まいったな……道に迷ったぞ……」

京が言った通り、森の側を通る道を街に向かって進んでいると、
突然狼の群れが現れ、蒼司の乗る馬車に襲いかかってきた。
護身用にと持っていたナイフで応戦し、何とか怪我はなかったものの、
パニックを起こした馬が暴走し、森の奥へ迷い込んでしまったのだ。

鬱蒼と茂る森は暗く、陽の光も遮られてしまう為方角がわからない。
狼に警戒しつつ、あてもなく馬を走らせていると、
森が段々と途切れ、大きな城門が現れた。

「こんな所に城が………」

空を見上げると、いつの間にか夜になっていたらしく、
引き返すにも道がわからないし、狼の餌食になるだけなので、
とりあえず休ませてもらおうと城門をくぐる為、馬を進める。
しかし馬は固まったようにその場から動かず、
何かに怯えた様子でカタカタと震えている。
このままでは埒があかないので、荷台を降り、手綱を引っ張っていると、
突然雷鳴が轟き激しい雨が降り出した。
その音で、緊張のピークに達していたらしい馬は驚いて暴れ、
思わず手綱を離してしまった蒼司を置いて、どこかへ走り去ってしまった。

成す術もなくしばらく途方に暮れていたが、
雨にさらされた体が寒さを訴えガタガタと震え出したので、
何とか少しでも暖を取ろうと城の中へ入って行く。





ひっそりと静まり返り、己の靴音のみが寒々しく響き渡る城内は、
まったくといっていい程に人の気配を感じない。

「誰かいませんか?」

声を出してみるも、それが空しく反響するだけで、答えは返ってこない。

「捨てられた城なのか?…それにしては綺麗だが…」

不安げにキョロキョロと周囲を見回しつつ進むと、
城全体を震わせるような、凄まじい咆哮がビリビリと響き渡る。

「なっ……何だ!?」

その声に驚き、慌てて懐に持っていたナイフに手を伸ばす。
すると目の前に突然、巨大な影が現れた。
見上げる程の大きな影の中に、黄金に光る何かがギョロギョロと動いている。

「貴様は何者だ」

話し掛けられて、それがようやく大きな人であるとわかる。
ただでさえ薄暗い城内で、相手が光を背に立っているので
姿まではわからないが、先程の黄金に光るものが眼だと理解する。

「この城に何の用だ」

全ての者を震え上がらせるような威圧的な低い声と、
ただならぬ恐ろしい空気に、何も応えられなくなる。
すると思わず手元に持っていたナイフが地面へと滑り落ちた。
それを見た影は咆哮を上げ、

「俺を殺し、城の宝を奪うつもりか!!!」

と怒り狂い、蒼司を掴み上げる。
その瞬間雷鳴が轟き、巨大な影を照らし出す。


その姿は、人のものではなかった――――――――――

















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