翌日、何とかあの城へ戻ろうと兄弟は動きだした。
兄は弟の為に、狼と戦う為のナイフを作り、
弟はそんな兄へのせめてもの礼をと、
美味しいものを作るべく村へ買い出しに出掛けた。





「おはよう、おばさん」
「あら、おはよう京ちゃん。
 しばらく顔見なかったけど、どこかへ行ってたのかい?」
「ああ…うん。兄貴と一緒に街へ行ってたんだ」
「そうなのかい。街への道は狼が出るってウワサだけど  ……大丈夫だった?」
「途中襲われて、道に迷った分時間がかかったなあ…」

本当の事を言うわけにもいかなので、
当たり障りのない嘘で誤魔化しておく。

「やっぱり!?狼にはホント困ったもんだよ……
 そういえば、その狼を退治してくれるハンターの人が
 今この村に来て下さってるんだよ。
 ―あ、あの人だよ!!」

そう言って指差した先には、ガッシリとした体格の
少し柄の悪そうな男が、こちらに向かってやって来る。
背中には使い込まれた感のある大剣を背負っている。

「よォオバさん。それに……キレーな兄ちゃん、オハヨウさん」
「おはよう竜二さん」
「おはよう…ござます」

ニコニコとして愛想の良さそうな感じではあるが、
その瞳からはどこか邪悪な雰囲気が感じられ、
京は背筋が凍るような感覚に捕われる。

「これから狼退治ですか?頑張ってちょうだいね〜」
「オゥ、狼共の毛皮はイイ値で売れるからなぁ
 こっちも願ったり叶ったりなのさ」
「へ、へえ」

何となくこの場に居辛くなって、頃合を見計らって
抜けようと少し後ずさる。


「おっ、兄ちゃんイイモン持ってんな、ちょいと見せてくれよ」

そう言って京が持っていた籠に結び付けていた髪の束を目敏くみつけ、
サッと京から奪い取ると目線に持ち上げる。

「ヘェ……赤い毛なんて珍しいなァ。
 兄ちゃん、これどこでみつけたんだ?」
「さぁ…道に落ちてたから拾っただけなんだけど」

スッと声色をハンターらしい獰猛な色に変えて京をチラリと見る。
とりあえず籠を返してもらうと、大事そうにそれをポケットにしまう。

「残念だなァ、そんな珍しい色の毛なら高く売れ―――」
「おっ…俺、早く戻らないと!!
 じゃあ おばさん、ハンターさん、失礼します!!」

竜二というハンターが喋るのをこれ以上聞いていられなくなり、
京は逃げるようにその場を走り去った。





「そう言えば…竜二さん、街へ向かう道沿いにある森の奥に、
 狼より恐ろしいものが棲んでるって最近噂になってるんですよ?
 薪売りの影二さんが資材集めに森に入った時に、
 恐ろしい吠声を聞いたんだそうですよ〜〜」
「へ〜……恐ろしい声……」
「狼だけじゃなくてそんな得体の知れないものまでいるなんて…
 恐いですわよねえ……」
「そうだねェ…」

























嫌な予感を拭い去れず、戻った家で先程の出来事を兄に報告する。

「何か良からぬ事にならなければいいが…」

兄も同じような印象を受けたらしく、深刻な面持ちで考え込み、
京にすぐにでも出掛けられるよう準備を促す。

すると窓の外で、小鳥が何か訴えるようにバサバサと翼をはためかせている。
何事かと窓を開けて中に招き入れると、
興奮した様子でピーピーと京に何かを言っている。
それが何を伝えたいのか蒼司にはわからなかったが、
次第に京の顔が色を失って行く。

「何て言ってるんだ?」

通訳を求めると、ポケットを強く握り締めて、

「獣の城へ、さっき言った男が向かったって。
 獣を殺して毛皮を売るつもりだって言ってる…」
「……っ、遅かったか!!
 京、早くブライアンに乗れ!!獣の城へ先回りするんだ!!
 この事を獣に伝えて、逃げるように言うんだ!!」
「わかった!!」

取るものもとりあえず馬に跨がると、馬の頭に移動して来た小鳥に問いかける。

「城まで案内してくれるか?」

小鳥は答える代わりに大きく羽ばたくと、森に向かって飛んで行った。
その姿を見失わないように、京は馬の腹を蹴った。








小鳥の案内に暗い森を全速力で駆け抜ける。

嫌な予感が膨れ上がり、不安に押し潰されそうになりながら、
獣の髪をギュッと握り、無事である事をひたすらに祈る。








「ん……?あれは……」

50m程先の木々の合間を、
猛スピードで移動していく影を竜二が捉える。

「村で合ったキレーな兄ちゃんじゃねェか……
 思った通りだ………」

ニヤリと口の端を残忍に歪ませると、馬に跨がり、
姿を見失わず、相手に気付かれない位置に隠れながら後を追う。





「案内してもらうぜ?ヒャハハハハハハハ………」


















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