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「誰か、誰かいねェのか!!紅丸!テリー!!」 バァン!!と城の扉を勢い良く開けて、あらぬ限りの声で叫ぶ。 周囲は静まり返っており、ハンターが既に来ていて、 皆殺された後なのでは…と背筋に冷たい汗が流れる。 しばらくすると、軽快な足音が2つ近付いてくるのを聞き、 ホッと胸を撫で下ろす。 「紅丸!!テリー!!」 「キョウ!?帰ったんじゃなかったのか!?」 「何でもいい!!非常事態なんだ、獣に伝えてくれ!! ここにハンターがやってくる、アンタ等を皆殺しにして 皮を売り捌く気なんだ!!」 「何だって!?―と、とにかく主に伝えて来るよ!!」 テリーが京の伝言を伝えるべく、獣のいる部屋へと駆けて行く。 「紅丸も、他の皆に逃げるように伝えてくれ!!」 「わかった!!」 テリーとは別方向へ消える紅丸を見送ったと同時に、 背後から背後から乾いた靴音が聞こえて来る。 「兄ちゃんの後つけて正解だったなぁ…… 有難うよォ……ここを教えてくれて」 「!?」 振り向くと、そこには大剣を背からスルリと抜き放ち、 その刃を愉悦の表情でペロリと舐め上げる竜二の姿があった。 「俺の後をつけてきた…だと!?」 「ああ…アンタが持ってた髪の主にどうしても会いたくてねェ アンタにカマかけりゃ動くだろうと森で張ってりゃ案の定よ」 「…っ」 まんまと男の罠にはまり、自ら城を危険に 晒してしまった失態に唇を噛み締める。 「さ〜てと?ここにゃ色々いるみてェだし、 楽しんで殺らせてもらうとするかぁ!!」 ゲラゲラと笑いながら動き始める竜二の言葉に ハッと我に返った京は、竜二の前に立ち塞がる。 「………何のつもりだ?」 「ここから先は通さない」 「ハッ…何言ってンだ?邪魔すんじゃねェよ兄ちゃん」 先程までの穏やかな雰囲気が一変し、 少しずつ凶暴で荒々しい風貌へと変わっていく。 素手で立ち向かうのは無謀だと、周囲を見回して武器を探すと、 レリーフに剣が交差してあるのを発見する。 何とかそれを引き抜くと、竜二の前に構える。 「どうあっても通さねェつもりかァ?上等だァ!!!」 もの凄い勢いで振り下ろされる竜二の大剣を受け止めたものの、 剣の重さも体格も違う相手では、受けるだけで精一杯だ。 何合かは受け止めてやり過ごすも、手が衝撃に耐えられず、 ビリビリと痺れ、剣が握れなくなって来る。 「オラァ!!ボサッとしてんじゃねェッ!!」 「うあっ!!」 怒号と共に剣が弾き飛ばされ、カラカラと後方へ吹っ飛んで行く。 それを見送る間もなく、切っ先を眼前に突き付けられ、 身動きを封じられてしまう。 「にわか仕込みで勝てるワケねェだろ? 大人しくそこをどきな」 苛立ちを含んだ声でそう忠告するも、 京は怯む事なく再び両手を広げてその場を動かず、 揺るぎない強い瞳で竜二を睨んでいる。 「………しつけェなァ…」 「ああ……お前みてェなゲスが入っていい城じゃねェんだよ」 「ッ…殺されねェとわかんねェみてェだなァッ!!!!!」 怒りの頂点に達した竜二が剣を振りかざす。 痛みに耐える為に歯を食いしばり、目を閉じる。 その時、城全体を震わせるような凄まじい咆哮が響き渡り、 それと共に京の横を突風が駆け抜けた。 「なっ……ぐぉわっ!!!」 同時に竜二が低い呻きと共に遠くで何かに激突する音がする。 そっと目を開けると、目の前に巨大な影が立っている。 燃えるような毛は逆立ち、まるで焔がそこにいるような 錯角におそわれる。 「下賤な狩人よ、我が城に何用だ」 その容姿と唸りと共に凍てつきそうな黄金の目に見据えられ、 さすがの竜二も恐怖を抑えきれないようで、 ガタガタと震えながら、大剣を支えに立ち上がる。 「ヘッ、アンタがこの城の主か……ヒャハハハ… 燃えるようなそのたてがみ……最高だな……… 強さも申し分ねェ……… もっと俺を楽しませてくれよォォッッ!!!」 プッと血反吐を床に吐き捨てると、狂ったような笑顔で 獣に襲い掛かって来る。 その攻撃を鋭い爪で受け止めると、獣は城の外へ飛び出して行く。 「キョウ!!無事か!!」 「テリー! 俺は大丈夫だ。お前等の主人が助けてくれたから」 ハァハァと息を切らせてテリーが京の下へ走って来る。 「でもところどころ切れて血が滲んでるぜ。 それより、主は?」 「あそこ、今俺の代わりに戦ってくれてるよ」 京が指差す先では、獣と竜二が爪と剣を交えて 激しい戦いを繰り広げている。 「力の差は歴然だし、主の勝ちは目に見えてるけどな…」 「そう上手く事が運べばいいがな」 「―――なっ!!ッぐぁッ!!!」 戦いを見守っていたテリーと京の背後から、 黒髪を後ろに撫で付けたヒゲ面の見知らぬ男が現れ、 テリーを後方へと蹴り飛ばし、京の首を締め上げる。 「仲間が……いたのか」 「あの男が危険を顧みず、狼だらけの森に単身飛び込むと思うか?」 ククッ…と残忍に笑う男は、弱らせた京を羽交い締めの姿勢で連れ出し、 戦いの場へと進んで行く。 「獣よ、これを見るがいい」 「―――!!!」 「ッヒャハハハハハハ!!!よくやったゼロ!!」 首筋にナイフを突き立てられた京の姿を見て、 今まで優勢を誇っていた獣の動きが止まる。 「コイツを殺されたくなければ、動かぬ事だな」 「クソッ………放せ…っ 卑怯だろッ…」 羽交い締めから解放されたものの、軽く食い込んだ切っ先が 少しでも動けば切れてしまう。 身動きが出来ないまま、下卑た笑いを浮かべる竜二をギロリと睨む。 「卑怯でも何でも、勝ちゃイイんだよぉ!!」 「やめろォッ!!!」 京の叫びも空しく、ドスッという鈍い音を響かせて、 獣の腹に剣が突き刺さる。 獣はゴボッと血の塊を吐くと、その場に蹲るが、 竜二を睨み付ける瞳には、まだ強い光が宿っている。 「んだァその目は?! ジワジワいたぶってやろうと思ったが、ヤメにするか」 「……は、なせッ!!!」 剣を振りかざし竜二を止めようと、首に血の筋を作る事も恐れず、 ゼロの脇腹に肘鉄を喰らわせ、懐から抜け出す。 「サッサとイッちまいなァァッ!!!」 「やめろォォォォッ!!!!!!」 瞬間、竜二と獣の間に京が飛び出す。 しかし、振り下ろされる剣を受けた衝撃はいつまで経ってもやってこず、 目の前が闇に包まれている事に気付き、ハッと見ると、 獣が京を抱き締めて身を呈して庇い、大剣は肩口に深々とめり込み、 胸の辺りまで入った所で止まっており、そこから夥しい量の鮮血が溢れていた。 呆然とその様子をみつめる京に、獣が優しく微笑みかけると、 ゆっくりとその巨体が崩れ落ちる。 「……………………」 「チッ、肩傷つけちまったら値が落ちちまうってのに…… 面倒かけさせんじゃねェよクソがッ!!!」 倒れる獣の体に、忌々しそうに竜二が言葉を吐き捨てながら 巨体を踏み付ける。 「ぁ……ぅ………あ……ぁ」 獣の鼓動に合わせて血がドクドクと溢れ出すのを、 言葉にならない声でみつめる。 全ての音が遠ざかり、獣の苦しそうな息遣いと、 己の心臓の音しか聞こえなくなる。 そして、それに呼応するように、 森がまるで生きているかのようにザワザワと蠢き始める。 「なっ……何だ?」 「あぁあああああああああああああああぁッッ!!!!!」 京の絶叫が合図のように、森の中から無数の鴉の群れが 竜二とゼロに向かって襲い掛かった。 「やめろッ……クソ…この……どけッ……!!」 大剣を失い、覆い被さるように顔を攻撃して来る鴉達に、 素手で払い除けながら逃げ惑う竜二と、 奇声を上げながらナイフを振り回しているゼロ。 2人は何とか城門から外へと逃げ出し、鴉の攻撃から逃れられたものの、 鋭い嘴にやられ、体中血まみれになっていた。 その血の臭いを敏感に嗅ぎ付けたのか、今度は狼達に囲まれる。 「うわぁぁぁぁぁッ」 恐怖に顔を引き攣らせながら、狂ったように森へと駆けていく2人を、 狩りを楽しむように狼達が後を追う。 しばらくして、森の奥で断末魔のような2つの悲鳴が上がった―― |