暦も11月に入ると、空気が冷たさを帯び、
木々も冬の準備に葉を落としはじめる。

外に出れば肌寒さを感じるのだろうが、
今俺がいるこのライブハウスは、
毎日のように鬱陶しい程の熱気で溢れかえっている。


「ふへェ〜〜〜……11月だってのに、
 ホントここは暑いな〜」


俺と同じく今回のライブのヘルプとして呼ばれた二階堂は、
首に巻いたタオルで伝う汗を拭いながら
同じような感想を洩らしている。

考える事が同じというのはあまり釈然としないものだ
これが京であれば喜ぶべき事なのだろうが………



そう考えたところで、ふとカレンダーが目に入る。
アイツの誕生日が来月に控えているな……
京は何かを欲しがるような事はせず、俺と共にいる事を望むので、
毎回どこかへ2人で出掛けたり、部屋で静かに過ごしたり、
時が流れるのを楽しんでいるのだが………
今年はどう過ごすか――――――――――



「何カレンダー睨んでるんだよ、八神」

深く思考に耽っていたのを、二階堂が不思議そうに見ている。
…どうしてコイツは邪魔をするのだろうか、
他人の事に首を突っ込む祭好きな――――
そこまで考えて、俺の思考が止まる。
祭好きな奴を利用しない手はない。

「二階堂、話がある」
「何だよ、改まって」

怪訝そうに眉間に皺を寄せているあたり、
『何か面倒な事を押し付ける気か?』とでも思っているのだろう。
……実際その通りなのだが。

「来月、京の誕生日があるだろう?
 いつも2人で過ごしているだが…………
 たまには仲間に囲まれて騒ぐ誕生日があっても
 いいだろうと考えてな」
「へ〜、お前にしてはイイ考えじゃん。何かあったのか?」

ニヤニヤとからかいを含んだ笑みを浮かべて、更に詮索するつもりらしい。
まあ口止めしておけば誰にもバラさんだろうから、
この際洗いざらい言ってしまおう。
……コイツも迂闊にバラして命を縮めたくはないだろうしな。

「特にという事はないが……………………
 アイツは俺と関係を持つようになってから、
 気を使って交友を控えているようなんでな。
 たまには何も考えずに、仲間と飽きるまで騒がせてやりたいのだ。
 だから頼む、手伝ってくれ」

俺の言葉が終わるのを待ち、二階堂が呆れたような表情で溜め息を吐く。

「お前ってさ〜、京の事になるとホント饒舌になるよな」

クックッ…と楽しそうに笑う二階堂の様子は正直面白くはないので
軽く睨み付けてやると、「まあ待て」というようなポーズを取るので、
笑いが収まるまでとりあえず待ってやるが……
なかなか止まる様子がない。
………コイツ…燃やしてやろうか…
俺があまり我慢のきく男ではない事を、よく知っている筈だがな

「わかった、手伝う、手伝うから!!」

空気が変わったのを感じ取ったらしく、慌てたように承諾の声をあげる。
…燃やせなかったのは残念だが、頼みを聞いてくれた事には感謝しよう。

「じゃあ基本的に俺があれこれセッティングしとくから、
 八神は影のプロデューサーって事で、最終的な決定は任せるよ。
 詳しい事は随時メール送るから」

俺の性格を考慮に入れて動く辺りがコイツらしいというか…
まあ俺が主体で動いては京に勘付かれる確率も上がるし、
何かといらぬ時間も食うだろうからな。
適度な距離を保って接するコイツで人選は間違いないだろう。

「……任せる」
「あいよ!!さ〜て、俺の腕の見せ所だな!!」

………本当に祭好きな男なのかも知れん……


































それから、二階堂は人脈を生かして周囲に協力を呼び掛け、
京の誕生を祝うべく多くの人を集めて来た。
二階堂にも人望はあるのだろうが、
[草薙 京]という名もそれに負けず劣らず、
『京の為なら』と協力してくれる者も多いようだ。
……俺にとっては京に群がる鬱陶しい害虫だが、
今回ばかりは重要な人員だ。

だが、迂闊に手を出さぬよう牽制は必要だろう。





そんな事を考えていると、携帯が着信を知らせる。
聞き覚えのないメロディーが流れたので気付くのが遅れたが、
それを入れたのが誰かはわかっているので、
苦笑しつつ携帯を手に取る。
ディスプレイを見るとメールの着信。
相手は――――二階堂か。


  会場決定!!
  いつも使ってるライブハウスの親父さんが
  貸してくれるってさ!!(喜)
  下見も兼ねて、企画の話もしたいから
  本日午後5時に上記の場所へ来てくれ。
  京には[ライブの打ち合わせ]って言って
  出て来るように!!
  ーあ、ベースもちゃんと持って来いよ!!
            紅丸


いちいち指示の細かい奴だ
まあそれも京を喜ばせる為だ、文句は言うまい。
今は…3時半か。
あそこまでなら車で30分程度で着く。
もう少しここにいても支障はないだろう。

コーヒーでも飲もうかと自室を出ると、
リビングで京が呑気にTVを見ている。

「出掛けんのか?」

首だけをこちらに向けて聞きながら、
移動する俺の動きを目で追う。
……まるで猫だな

「ああ、打ち合わせにな。4時頃に出る」
「ふうん」

毎回の事なので特に気にした様子もなく、
再び画面に顔を戻していく。
俺はその横に腰掛けながら、
ついでに作った京の分のマグカップを手渡す。

「おっ、サンキュー」

嬉しそうに微笑みながら受け取り、
美味そうに甘くしたコーヒーをすすっている。
………ご機嫌取りは比較的安易なもので出来るから面白い。



「そういえば…お前、また俺の携帯を弄っただろう」
「あ、着メロヒッキーの『光』にしてみたけど、どうよ?」
「どうよと言われてもな……」

ケロリと悪びれた様子もなく、逆に自慢げに感想を求められてもな…
コイツはメールや着信履歴は見ないものの
(俺のプライベートを尊重しているのだそうだ)
着信メロディやらにはこだわるらしく、事あるごとに
俺の携帯をいじって遊んでいる。
以前理由を尋ねたところ、
「自分のよりも機能満載で楽しいから」なのだそうだ。
まあ無造作に置いておく俺も悪いが、
気が付けば音が変わっていて、しばらく気付かなかった事もある。
半ばそれを楽しみにし始めている自分がいなくもないのだが。

…ちなみに、二階堂から来る例の件のメールは
即刻削除しているのでバレる心配はない。
……浮気を隠す夫のようで気はひけるがな。


「…………どうせならQUEENかエアロスミスにしておけ」
「!!りょ〜か〜い」

俺がそう言うと、少し驚いたようだったが、
すぐににっこりと嬉しそうに微笑んだ。





その笑顔がどれだけ俺の精神に影響しているか…
無自覚なだけに手に負えん。












































少し遅めに家を出て、ライブハウスへ到着すると二階堂が待っていた。
今日は定休日らしくプレートが下がっていたが、
鍵を借りたようで中へ入って行く。
普段の印象とは違い、人のいない空間は同じ明るさでも薄暗く感じるものだ。



「待ち合わせより10分遅刻だよ。
 相変わらずルーズな男だね」

声のした方を見ると、隅に設置されたバーカウンターの中に、
女性格闘家チームのキングと、
サイコソルジャーチームだったか……の麻宮アテナがいた。

「まーまー、コイツいくら言っても無駄だから」
「―それで?企画がどうとか言ってたな」
「その説明は私が」

二階堂と共にカウンターに腰掛けながら、
メールにあった用件を尋ねると、
少し身を乗り出しながら、まるで学校で発言するように
麻宮が挙手し、コホンと咳払いをする。
隣でニヤニヤする二階堂を見る限り、
コイツは既に了承済みのようだ。


「実はですね…せっかくライブハウスを貸し切って
 パーティーをするんですから、
 京さんの為だけにライブを開いてはどうかと思って。
 メンバーは私と庵さんがいる事ですし、どうせなら
 京さんも関わりのある、バンドオブファイターズを
 やってみようって事になったんですよ!!」
「ほう」
「ホントは京さんも入れたいところですけど、
 主賓なので、代わりに紅丸さんに入ってもらって、
 ドラムのテリーさんは既に呼んで頂いてるので、
 残りのキーボードは舞さんにお願いしようかと。
 ――――――どうでしょうか?」


キラキラした瞳で承諾を求めて来る麻宮。
……最終的決定権は俺にあると言っていたしな。

「いい案だ、京も喜ぶだろう」
「じゃあ、庵さんがベース担当って事でイイんですか?」
「ああ」
「やったぁ!!」

二階堂と両手を合わせてハシャいでいる姿は、年相応に少女らしさを感じる。
これが世界的に有名なアイドルだというのだから…世の中わからんものだ。

そんな様子をカウンター内で微笑ましそうに見ているキングは
……そういえば何の為にここにいるんだ
その視線を感じてか、俺の前にコトリとグラスが置かれる。

紫から青へのグラデーションが美しいカクテルだ。

「『ブルームーン』か」
「アンタの焔の色のイメージから、何となく作ってみたのさ」
「……どうせなら『アンバードリーム』にしろ」
「まだ明るい内からそんなキツイもの飲むもんじゃないよ」

そう言いながら、二階堂に『ムーランルージュ』
未成年の麻宮にはさすがに『プッシーキャット』を出している。

興味深そうにカクテルを指差しながら色々質問してくる麻宮に
丁寧な返答を返しながら、また何かを作っている。
一通り説明し終わると、また俺の前にグラスを置いた。
…………まだ先程のものにも口はつけていないんだが?

何だと眉を寄せつつキングを見ると、

「これは誕生日に出してやろうと思って作った、
 草薙京専用オリジナルカクテルさ。
 ただ、まだ名前が決まってなくてね……」

そう言いながら、色合いの成分と、そこに込めた意味を説明する。
それを聞いていて思い浮かんだ言葉は、1つだった。



「innnocent blaze……」



他の2人も考えていたようだったが、俺が呟いたのに
驚いた様子でこちらを見て、次には大きく頷いている。

「イイんじゃないかい?あたしは気に入ったな。
 有難くその名前を頂くよ」
「………好きにしろ」



















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