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RRRRRR……… リビングに置かれた携帯電話に、着信を知らせる音が鳴り響く 「うっわ、びっくりした〜」 側でのんびりとTVを見ていた京がその音に驚いて飛び上がる 「ったく…驚かすなよ……誰だ一体」 いるはずのない相手に非難の言葉を投げつつ、名前を確認しようと携帯に手を伸ばそうとして気付く 「ーあ、これ庵のじゃん」 とりあえず切れるのを待つが、なおもしつこく呼び出しが続くので、 仕方なく携帯を手に取り<、持ち主のいるバスルームへ向かう 「庵ィ〜、携帯にデンワ〜」 ドンドンと脱衣所のドアを叩いて叫ぶ、その間も呼び出しはけたたましく鳴り響いている …………相当しつこい人物のようだ すると奥からバスルームのドアを開ける音がする 「濡れていて出れんから、お前が出て用件を聞いておいてくれ」 ドア越しに庵が告げる、奥でシャワーの音が響いているので、まだ入浴中なのだろう ええ!?と叫び、携帯とドアを交互に見ながらためらいがちに尋ねる 「……………………いいのか?」 「構わんから早く出ろ」 そう言うとバスルームのドアを閉めてしまう いつ鳴り止むとも知れない携帯をみつめ、少し躊躇しながら通話ボタンを押す 「……はい」 『ああ…やっと出た。もう、電話に出るだけにいつまでかかってんのよ』 電話の向こうの声は……聞いた事のない女性の声 その声に、京はショックを受け、立ち尽くしてしまう 『ちょっと、聞いてるの!?』 返事がないので、少し苛立ったような相手の声に、ハッと我に返る 「あ…今八神が電話に出られないんで、代わりに俺が用件聞いておきますけど…」 『えっ!?あ〜、ごめんなさい、お友達の方だったの』 別の声だと気付いて慌てて口調を変える女性 その間も誰なのか、どういう関係なのか、という考えが京の頭をグルグルと巡る 『じゃあ…伝言お願いできますか?』 「ちょっと待って下さいね」 そう言ってテーブルに移動し、手元にあった紙とペンを引き寄せる 「……どうぞ」 『今日約束の日で待ってたんですが、来なかったので明日に変更しておきました 時間は今日と同じなので、必ず来るように……ってお願い』 ガリガリとメモを取り、用件に間違いがないか確認する 「それで…お名前は?」 『アイツには「あたし」って言えばわかるから、じゃあよろしくね』 そう言って通話を切ってしまう 「ちょっ…」 あまりの事にツーツーと終了を告げる携帯を呆然とみつめていると、 濡れた髪をタオルで拭いながら庵が現れる 「誰からだった」 その声でハッとし、そっぽを向いたまま携帯とメモを差し出す 「『あたし』って言えばわかるって人から」 ぶっきらぼうにそう言って無理矢理手にねじ込む 「アイツか………」 それを受け取って呟く庵に、京はピクリと反応するが 「さ〜て、出たんなら次入ろ〜っと」 気取られたくないのか、ヤケに取り澄ました声で横をすり抜けて行く 脱衣所に続く角でチラリと振り返るが、 庵はそれに気付く事なく、メモに意識を集中させていた ノズルを全開にして、滝のように流れるシャワーを頭から浴びる ー『あたし』って言えばわかるから……ー ーアイツか………ー 掛かって来た女性の声と庵の言葉を、何度も頭の中で繰返す 『今日…待ってたって言ってた………庵も…忘れてたみたいだけど その人の事…知ってた……携帯電話の番号も』 跳ねる水とシャワーの音だけがバスルームを支配する ゴツン、と壁に頭をぶつけ、壁に寄り添うように体重をかけると、 上げていた髪が湯の流れで顔を覆い、その表情を隠していく 「みっともねえな………俺って………」 掠れた呟きは水音に遮られ、誰にも届く事なく流れの中へ消えて行った 「随分長かったな」 「ああ………うん、まあな」 脱衣所から出ると目の前に庵が立っていた 静かで長い間出て来ないので、倒れているのではと心配して見に来たらしい 心配するだろうが、と掛けてくれた言葉は嬉しかったが 今は素直に喜べず、曖昧な笑顔を返す 「……疲れたみたいだから、俺……もう寝るよ」 「そうか」 そう言って、気遣うようにそっと京の顔に手を伸ばし、唇を重ねようとする だがそれは京の手によって遮られてしまう 「………京?」 驚いた顔をして見る庵の視線から逃れるように、うつむいて顔を背ける京 「………おやすみ…」 呆然と立ち尽くしている庵に振り向く事なく自室へ入って行ってしまう いつもよりも重く感じる体をベッドに投げ出し、大きな溜息を洩らす 仰向けに転がり、ぼんやりと天上をみつめながら、思考の海に意識を飛ばす 『アイツは「来る者は拒まず」な性格だし、あのルックスだから… そりゃ世の女はほっとかないよなぁ……… でも、形として示されてしまうのは……やっぱり辛いな』 庵が自分のものである、という印などどこにもないし、 庵が好きなら止める権利は自分にはない 「男同士である」という壁の重さを、改めて実感する ーと、携帯電話から着信を知らせるメロディが 「……もしもし?」 『おう、京。久し振り』 電話の相手は親友・二階堂紅丸からであった。紅丸は屋外で電話してきているらしく、 車の走行音などが向こうから聞こえて来る 『今話しても大丈夫か?』 紅丸は庵とも親しく、京が庵と共に暮らしている事や、庵との関係などを知っているので、 庵の嫉妬深い性格を知っているので、気遣って確認を入れてくれる 「……別に構わないけど」 そんな気遣いに苦笑しながら答えると、そうか、と笑い混じりの返事が返って来る 『実はな、俺の友達でお前に会いたいってヤツがいてさ、悪ィんだけど、明日出て来てくんね〜かな?』 名前を出して来ない紅丸の口調から、何となく『女性』の臭いを感じ取る 「でもさ……」 『言っとくが、彼女紹介、とかそんなんじゃねえからな』 ためらいがちに断ろうとする京の口調に気付き、後の言葉を遮る 『俺だってそこまでバカじゃねえよ、詳しくは明日また電話するから』 そう言って通話が終わる。後には沈黙と携帯のかすかな明かりだけがが残された 手の中の携帯に、先程の電話がフラッシュバックする 『俺と庵の関係って……何なんだろう……』 そんな事を考えている内に、いつの間にか眠りの底へ沈み込んでいく その夜、ベッドの傍らに庵が座っていて、 「バーカ」 と困ったような笑顔を浮かべて、優しく頭を撫でてくれる夢を見た気がした |