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「さ、ステージに行きましょ。せっかくパス持ってるんだから、京もスタッフとして一緒に見てて」 京の手を引いてステージに向かう廊下を、嬉しそうに歩いて行く スタッフと挨拶を交わし、すり抜けていきながら、このえがポツリと言う 「昨日はゴメンね」 「え?」 何の事かわからずに聞き返してしまう 「昨日、アイツの携帯に出たの、京だったんでしょ? アイツに友達がいるとは思わなかったけど、まさかそれが京だとは思わなくて…… 八神を困らせるつもりであんな意味深な言い方しちゃって……… ショック、受けてるでしょ?」 思わず立ち止まってしまい、それが全てを肯定する このえもそれがわかったのか、もう1度ごめんと謝る 「何でわかったんだ?」 「八神から電話掛かって来た時にためらってたし、アイツが来た時も目を合わそうとしなかったし…… それで何となくピーンときたの」 細かいところまで指摘され、苦笑しつつ両手を上げる 「かなわないなぁ……」 「そりゃあこれでも女の子ですから」 そう言ってニッコリと笑い 「でもこれでホッとしたでしょ?」 と鼻をツンと突かれ、今度は笑顔で答える 「おかげさまでね」 ニッコリ微笑む京に満足したのか、嬉しそうに腕を絡めて、照れる京をステージ袖まで連れて行く 袖に辿り着くと、耳を貸せ、というジェスチャーをしてくるので、何だろうと思いつつ耳を傾けると 「八神がライブやるなんてそうそうあるもんじゃないから、じっくり見てってね。 アイツに見蕩れる気持ちはわかるけど、時々はあたしも見てよ? …まあ八神はベースと京しか見ないと思うけどね」 「このえ!!」 真っ赤になって叫ぶ京に、ケラケラと笑いながら、じゃーねーと手を振り、ステージへ上がって行く 「ったく…」 すっかり気分が和まされている自分に苦笑しつつ、 ステージがよく見えるドリンクバーのカウンターへ移動する 庵や紅丸達メンバーもステージに集まり始め、スタッフとの楽器の最終調整をしている マイクをテストしていたこのえと目が合い、こちらに向かって手を振ってくれるので、 それに小さく手を振り返す 「何か飲むかい?」 横に立っていた大柄な男性が、カウンターに入りながら尋ねて来る 「え……じゃあアイスティーをお願いします」 さすがにこの時間でアルコールを飲む気にはなれないので、当たり障りのないソフトドリンクを注文する。 代金を払おうと財布を取り出すと、いらないと首を振られてしまう。京が困った顔でいると、 「君がこのえの会いたがっていた『草薙 京』くんだろう?」 「そうですけど…どうじてご存知なんですか?」 不思議そうに首をかしげると、男性はニッコリと微笑み、 「俺はこのえの父親・桑原だ、宜しくな」 と教えてくれた。桑原はここのオーナーをやっているが、酒好きがこうじて、 兼業としてバーテンもしているのだとか。 今やこのライブハウスの名物おじさんになっているのだと笑う 「このえの客人は俺の客人だからな、奢らせてくれよ」 と微笑まれたのでは何も言えなくなり、その好意に甘える事にした アイスティーを口に含みながら、チロリと桑原を見る 『この人は……どこまで俺の事を知ってるんだろう…………』 そんな事が気になって、聞こうかどうしようか迷っていると、桑原が近付いて来る 「そういえば…君は八神の恋人なんだってなぁ」 「ぅぶッ!!」 あまりにもストレートに聞かれ、驚きのあまり噴き出しそうになり、ゲホゲホと咳き込む。 それを桑原は楽しそうに眺めている 「こッ…このえに聞いたんですか」 「ああ。まっ先に俺に報告しに来たぜ。『聞いて!!八神に恋人ができたんだって!!!』ってな」 「…………言いふらすなよ…」 呆れたように呟きながら、恥ずかしそうに頬を染める。桑原はそれにハハハ、と笑って京の横のカウンターに 半身を預け、このえ達がワイワイと言い合っているステージを眺める。京もそれに合わせてステージを見る。 それぞれが最終チェックや、アンプの音量などをスタッフと話し合いながら調節している。 庵もまたベースを爪弾いて何かを話している。ステージ上での庵は 何だかいつもと違った雰囲気を放っていて、少し遠い存在にも感じるが、輝いて見える。 音楽が好きなんだなぁ…とか考えつつ、ぼんやりと見ていると、 庵と目が合ってしまう。手でも振ろうか…などと考えてしまった自分が 恥ずかしくてそっぽを向くと、少し庵が微笑んだ気がした 「アイツはホント丸くなったよ。人嫌いで、群れるのが嫌いで、自分勝手にやってたアイツが、 今こうやってこのえ達とライブやるってんだから………」 カウンターに頬杖をついて、まるで父親が成長を喜ぶように、庵を眺めながら嬉しそうに微笑む。 そして、その顔を京にも向ける 「お前さんの力……なんだろうなぁ」 「オ……俺ェ!?」 驚いて自分を思わず指差してしまう京に、そうだとうなづいてまたステージをみつめる 「アイツが、メジャーデビューを果たせるって時に姿を消したのは聞いただろう? その時に残していったメモの言葉は……今も忘れないぜ……」 ステージではメロディが流れ始め、いよいよリハーサルが始まり、このえがゆるやかに歌い出す。 曲は『夕陽と月』 京がこのえの数々の曲の中で最も好きな曲だ その曲を背後で聞きながら、桑原の次の言葉を待つ 「『俺は 1人でいい』……そのたった一言だった。 それだけだったが……何かよぉ……それがアイツの全てか、って思ったら…… 泣いてしまいそうだったぜ……」 遠い昔に思いを馳せながら、辛そうに語る 「1人でいい……か……」 その言葉を声に出して繰返して見る。その時、庵はどんな気持ちだったのだろうか…… 「でも、今は違う。……そうだろ?」 「えっ………あ」 ニヤリと笑う桑原の言葉がどういう意味かわかって、真っ赤になる京に、冗談だよ、と笑って肩を叩く 「おおっと恐ェ!!お前さんに触れるのは御法度らしいや。八神の奴が睨んでやがるぜ」 ケラケラと楽しそうに笑いながらそう言う桑原に、親子だなぁと苦笑する 「そういえば……どうしてライブハウスのオーナーをやろうと思ったんですか? このえのプロモーション活動だけでも大変でしょうに」 ん?そうだなあ…と呟くと、自分用にジントニックを作る準備を始める 「俺も昔は八神と同じベーシストでな。こういうライブハウスで誰かと一緒にバンド組んだり、 どっかのバンドのヘルプしてたりしたもんさ。今でもこういう空間が好きでな……」 酒をグラスに注いで氷を入れ、マドラーでカラカラとかき混ぜる 「ライブの熱気を感じていたいんだろうな、きっと。 根っからの音楽好きだからなぁ〜、俺も、このえも」 そう言って、作った酒を一気にあおる。柄にもなく熱く語ってしまったのが照れ臭いのか、 酒が回ったにしては早すぎる程赤い顔をしている 「まあ……そんな俺達を支えてくれている客に、せめてもの感謝に、ってんで 今日このライブハウスに入った者だけが知る 『KONOE』の超シークレットライブをブチかますんだけどよ〜」 へへへ、と子供のようにいたづらっぽい笑顔を浮かべる桑原に、京もつられて微笑む 「ったく、ホント人驚かすのが好きな親子だぜ」 |