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――翌日―― 昨晩の内にカカシから受けた待ち合せ場所に、 イルカのおかげもあって指定時刻よりも早く到着したナルトは、 清々しく感じる朝の空気を大きく吸い込む。 ―昨日までの事が嘘のように心が軽い。 「やっぱ俺はこうでなくっちゃ!!」 ウンウンと納得していると、サクラが向こうからやってくる。 「おっはよ〜〜!!!サクラちゃ〜ん!!!」 ブンブンと千切れんばかりの元気のよさで手を振るナルトの下に、 嬉しそうに微笑みながらサクラがやってくる。 「おはよう ナルト。元気になってくれて良かったわ。 やっぱり、ナルトがこうじゃないと調子狂うのよね〜」 「えへへ……ご迷惑おかけしましたってばよ」 照れ臭そうにポリポリと頭を掻いて詫びる。 心配してくれたのが嬉しくて、笑顔が止まらない。 しばらく2人で喋っていると、サスケがやってくる。 「あっ、サスケくん、おはようvv」 「あぁ」 「おはよってばよ、サスケ!!」 サクラの嬉しそうな笑顔の挨拶をいつもの調子で返すと、 それに気付いて振り返り、満面の笑顔で元気に言うナルトに、 一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに皮肉気な笑みに変わる。 「元気になったみてェだな」 「おう!!もうバリバリ元気になったんだもんね!! サスケにも迷惑掛けてごめんな!!もう大丈夫だってばよ!!」 普段睨み合ってばかりの自分に、いつになく素直で ニコニコと微笑みかけるナルトに調子を狂わされながらも、 「やっぱテメーはうるさくねェとな」 と意地の悪い笑みを浮かべながら返事を返してやる。 その言葉にナルトの表情が『ムッ』としたものに変わる。 「うるせ〜って何だってばよォ〜〜」 ぷぅ、と不服そうに頬を膨らませるナルトに、サクラが楽しそうにクスクスと笑う。 「サクラちゃんまで〜」と言おうとして顔を動かせようとした一瞬、 ナルトを見ていたサスケの目が、いつもとは違う柔らかい光を帯びる。 『―あ…』 それをみつけた瞬間に、何故かナルトの鼓動が跳ね上がった。 『ちょ…ちょっと待てってばよ。こッこれって――』 まだ収まらない高なりに動揺していると、 「そーそー、やっぱナルトはこうじゃないとね〜〜〜」 頭上から間延びする声が。驚いて見上げると、ニコニコと微笑むカカシの姿が。 「やーやー、諸君おはようvv」 いつもと変わらぬ呑気さで挨拶をしているのに、 2人(サスケは見た目様子が変わっていないのでわからない)が固まっている。 「??どした??」 不思議そうに首を傾げて2人を見ると、近くの時計を指差した姿勢のまま、 パクパクと口を開閉して、恐ろしいものでも見たかのような表情だ。 「………先生が……時間ピッタリに来たわ…」 「昨日までの俺の事を考えても……ありえない事態だってばよ……」 「これは……明日……ううん これから豪雨になるかも…… !! ひょっとしたら大雪が降るかもしれないわよ!!」 「ええッ!?ゆ、雪は嬉しいけど、俺カッパも防寒具も 持って来てないってばよ〜〜〜〜!!!」 「……どこか雨も凌げて寒さも防げる洞穴でも探しておくか」 「そそそそそれがイイわね!!」 「ナイスアイデアだってばよサスケ!!」 いつの間にかサスケ(内心はかなり動揺していたらしい)も参加して これから起こりうる大事態について、尋常ならざる面持ちで語り合っている。 そんな事を言われているカカシはと言うと…… 「お前等……そういう事は俺に聞こえない所で言って……」 と道の隅にうずくまって[の]の字を書きながら、ハラハラと涙を零していた。 「こぉいうのはさぁ……キバ達の班にやらせる方がイイと思うんだけどな〜…… 絶対俺達より早く見つけられるし、その方が『コウリツがイイ』って言うんだってばよ」 本日の任務は『森に迷い込んだ犬の捜索』 ブツブツと呟きながら、森の茂みの中をズンズンと進む。 3人には無線機が渡され、それぞれに決められた区域を探索していく。 今現在、定時報告の時間ではないので、無線をOFFにしている状態なのをいい事に、 ひたすら愚痴をこぼし続ける。 「こういチマチマした任務は俺に向いてないんだってばよ〜…… あ〜あ、もっと上のランクの仕事がしてェ〜〜〜……」 不満全開に呟いていると、どこからか微かにではあるが、悲しげな鳴き声が聞こえる。 空耳かと思い耳に意識を集中させると、それはまぎれもない鳴き声で。 「あっ」 ガサガサと茂みをかき分けて声のする方角へ行ってみると、 小動物を捕らえる為に使われるトラバサミに、ターゲットの犬が掛かってしまっている。 「うわッ お前大丈夫かってば?」 罠の歯の食い込んだ後ろ足からはドクドクと血が流れ出ており、 痛みのあまり暴れたのか、肉が抉れてしまっている。 心配しつつ、落ち着かせようと近寄るが、 手負いの獣の本能か、警戒して唸り声を上げて牙を見せる。 「怖がらなくてイイってばよ?助けに来たんだから」 かなりの興奮状態にあるようで、相変わらず唸る犬に、どうしようかと考える。 数分の後、無線機があるのをようやく思い出して、応援を呼ぶ。 「ドベにしては上出来じゃないか」 「お前はヒトコト多いんだってばよ」 近い位置にいたらしいサスケが皮肉気な言葉を投げかけてやってくるのを、 ムッとした顔で見るも、犬が気掛かりで仕方ないので、挑発を受け流す。 『俺がオトナになんないと、犬がヤバイってばよ』 心に叱咤しながら、サスケと共にゆっくりと犬に近寄る。 「ヒドいな……」 犬の様子を見たサスケが、その状態に眉をひそめる。 それを横目に見ながら、ナルトは更に近寄って行く。 「今 足のヤツ取ってやっから、大人しくするんだってばよ?」 落ち着かせる為に頭を撫でてやろうと、ナルトがスッと手を延ばす。 「バカッ!!おま―――」 ナルトの行動に気付いて、制止をかけようとした刹那――― 「ガフゥッ!!」 「――ッ!!」 更に怯えた犬は、勢いよくナルトの手に噛み付いた。 「ナルト!!」 驚いたサスケが、ナルトの手から牙を離させようと近寄る。 しかしそれをもう片方の手でナルトが制する。 意図を理解できず立ち尽くしていると、サスケを制したその手で 自分の手に更に牙を食い込ませるように、犬の口をキツく挟み込んで押さえ付ける。 「お前、何を――」 「サスケ!!俺が押さえてるから、罠 ハズしてやって!!」 「っ……わかった!」 鮮血が滴り落ちるのをものともせずに言い放つナルトに、 気押されつつもサスケは犬の足に食い込んだ枷を外し、応急処置を施す。 「よく我慢したな〜、もう大丈夫だってばよ〜〜」 ニコニコ笑って、押さえ付けていた手を離して、犬の頭を宥めるように撫でてやると、 そっと口を離して、その傷口を申し訳なさそうに舐める。 「俺は平気だから。それよりもみつかって良かったってばね〜」 そう言うナルトに安堵したのか、今度はペロペロと顔を舐めてくる。 この犬なりに礼を言っているのかも知れない。 その横では、サスケがカカシ達に『ターゲット無事保護』の連絡を入れている。 通信を切ってナルトに振り返ると、片手からはまだポタポタと血が流れ落ちている。 「お前、こいつに手を延ばしたのはわざとだな」 隣に片膝をついて、ある程度血を拭って包帯を巻いて、簡単な応急処置を施しながら、 先程から考えていた疑問を口にする。 「ああ……うん。犬って知らない人に頭を触られるのって嫌がるからな。 ああいう興奮しきった状態なら、まず噛み付いてくるだろうなと思ったんだってばよ。 牙さえ押さえ付けておけば、罠ハズすのも治療すんのも楽かなって。」 またジワリと滲み出て、包帯を赤黒く染め始めるのを見て、 その色彩の強烈だと解答のアンバランスさに眉を寄せる。 「何でそんな無茶すんだよ……」 「ん〜?だってそのやり方しか思い付かなかったし。 結果上手くいったんだから別にイイじゃん」 何でもないといった様子のナルトに、頭をガリガリと掻きながら 呆れた様子でハーッと深い溜め息を洩らす。 「あんま……心配させんな……」 「え……?」 掛けられた声の掠れ具合と、背けられた頬が少し赤みを帯びているような表情に、 胸がキュウンと甘く痺れるような感覚を覚える。 「今……何て――――――」 「ナルト――――!!!サスケく―――ん!!!」 聞き直そうとした言葉を遮って、サクラとカカシがやってくる。 「よくやったな、2人共」 犬を受け取って特徴をチェックし、ニッコリと微笑みながら2人を褒めてやる。 ナルトは嬉しそうにしている反面、どこかよそよそしい。 その様子を見て取り、サクラに犬を渡すと、 ナルトに視線を合わせるように片膝をついて屈み込む。 「ホラ、見せてみろ」 「?何を??」 「手、ケガしてるんだろ?」 「………………」 渋々といった感じで隠していた手を出すと、包帯が痛々しく巻かれているが、 その包帯も今や血を吸い込んで真っ赤に染まっている。 スルスルとそれを解いて傷口を検分すると、 深々と牙の食い込んだ痕があり、いまもジワリと血が滲んできている。 「やだ、凄いケガしてるじゃない!!!」 それを覗き込んでいたサクラが悲鳴のような声で驚く。 「平気だってばよ、そんなに痛くないし。俺ってば回復力強いんだってば」 「だからってこのままにしといてイイってワケじゃないだろ?」 自慢気に言うナルトを、柔らかではあるがピシリとカカシがたしなめる。 「傷口から雑菌が入って、手が腐ったりでもしたらどうするんだ」 『いくら九尾の力で回復力が強くても、そこまではしてくれないぞ?』 「………ッ」 ナルトにしか聞こえない音量で言われ、ビクリと身体が震える。 いささか大袈裟な例えではあったが、ナルトを怯ませるには充分だったようだ。 「てッ手が腐るのはノーサンキューだってばよ〜!!!」 あわあわしだすナルトの姿に、面白そうにクスクスと笑いながら、 包帯だけ新しく取り替えてやり、大丈夫だと意を込めて頭をポンポンと叩いてやる。 「そんじゃまず、近くの川で傷口を洗っておいで。消毒はそれからだけど―――」 そこで『ん〜〜〜〜』と手を顎に添えて何かを考え始める。 「俺とサクラでワンちゃんを届けてくるから、ナルトはサスケに治療してもらう事」 「ええ――――――ッ!?」 「んじゃ、頼んだぞサスケー」 「……了解」 ナルトの抗議半分の驚きをよそに、サクラの肩を押して、サッサとその場から消え去る。 |