「―で、何も律儀にワシの所へ来なくともイイと思うんだがのォ…」

翌日。
自来也宅の縁側では、茶を飲みながら昨日の顛末を聞いて
大笑いしている自来也と、不満そうに膨れているナルトの姿があった。

「だって……嘘にはしたくねーもん……」

ありきたり過ぎる程の断りの口実だと自分でもわかっていたが、
それを本当に嘘にしてしまうのも非常に心苦しかったようで。
とりあえず昨日宣言した通りにやって来た、という事らしい。

「俺、邪魔しないでここにジッとしてるからさ、だから―」
「まあ、特に何をしとったというワケでもないし、
 ワシとしてはむしろ大歓迎じゃがの。
 ―それより、お前さんは参加したかったんじゃないのか?
 ハロウィンパーティーとやらに。………のォ」
「……そりゃ出たいってばよ」

自来也がチロリと横目に見ながら尋ねると、少し泣きそうに顔が歪む。
それを隠すように俯いて、少し間を空けて顔を上げる。
上げたその顔には笑顔が浮かんでいて。

「でも、俺がいたら皆に迷惑かけるから。
 皆を嫌な気分にさせたくないし…だからイイんだってばよ」

現状の自分には耐えるしかない、と諦める事を産まれた時から知っている子供。
らしくない大人びた乾いた笑顔を見せるナルトを、
自来也は引き寄せて抱きしめる。

「ガキが大人みてェに割り切った事言うんじゃねえっつの!!」
「わぷっ…なっ、何すんだエロ仙人!!」

突然抱き込まれグシャグシャと頭を乱暴に掻き混ぜてくる相手に、
ナルトも驚きと照れくささで必死に抵抗して腕の中でジタバタともがく。

「お前の事情を知っとる大人で、しかもワシはお前の師匠だぞ?
 素直に『悔しい』と泣きついて来てもバチは当たらんと思うがのォ」
「なっ……『甘えるな』とか『ガキじゃない』とか言ったじゃん!!」
「あの時と今じゃ状況が違うっつの!!余計な揚げ足取らんと、大人しくしとれぃ」
「…………う〜〜〜〜〜………」

何だか理不尽な気がしないでもないが、抵抗をやめて、大人しく腕の中に収まる。
それを満足そうに見下ろしながら頭を撫でてやると、
ナルトが嬉しそうに、まるで猫のように目を細めている。

「イルカやカカシでは任務やら仕事やらで、お前も気を使う事が多いだろのォ。
 ワシはいつでも暇だからの、いつでも遊びに来るとイイ」
「………ん」


























「話も一段落したし、コイツを攫いに来たのなら今しかないぞ。
 ………のォ、うちはの小僧」

「?」





何もない夕暮れの空に向かって、少し声を張り上げる自来也に、
ナルトは不思議そうにその顔を見上げる。

すると上の方から舌打ちらしき音が聞こえ、
屋根から何か小さな黒い塊が落ちて来る。
庭に降り立ったのは黒猫で、それは着地と共に
人間―うちはサスケ―しかも悪魔の仮装をしているらしく、背からは黒い翼が生えており、
舞い降りる姿はまさに悪魔さながらであった―へと姿を変えた。


「サスケ!?」
「―――――いつから気付いてた」
「最初から?どうせナルトを心配して探しに来るのは
 目に見えておったからの」

ギロリと冷酷に睨むサスケの視線を、事も無げに真正面から受け止め、
サラリと言ってのける。

「いつからいたんだってば?」

心底驚いた様子でサスケを指差しつつ叫んでいるナルトに、
自来也は少し考えるような仕草をして記憶を辿る。

「ワシが抱きしめて『何するんだ』とお前が叫んだ辺りからかのォ。
 ……その声でここをつきとめたらしいからの。そうじゃろ?」

投げ掛けられた問いに、視線を反らす事で肯定を示す。
細かいところまで言い当ててくる辺り、さすが『伝説の三忍』の一角だと言えよう。



「それもそうだけどさ、何でサスケがココに?エロ仙人に何か用だってば?」

キョトンとした表情でトンチンカンな質問をするナルトに、
他2名はガックリと脱力してしまう。
―さすが意外性No.1―と同時に思った事は言うまでもない。

「ニブ過ぎだのォ…おヌシ……(汗)」
「???」

「お前を連れに来たんだよ、ウスラトンカチ」
「俺?え……だって俺、行かねェって…」



「お前がいねェと……俺が行ったって意味ねェだろうが……っ」



宵闇にもサスケの頬が赤く染まるのがハッキリとわかって。
隠そうと顔を背けるも、ナルトには照れているのがわかり、
つられるようにナルトの顔も赤く火照る。


「来いよ、ナルト。一緒に……行こうぜ」
「う……うん」


差し出されるサスケの手を取ろうと、自来也の膝の上から抜け出し、
身を乗り出して手を伸ばす。





「あいやしばらく!!」

せっかく2人の世界に浸っていたというのに、
自来也が叫んだ事でサスケは舌打ちし、ナルトは驚いて飛び上がり、
今の状況の恥ずかしさにさらに顔を赤く染める。

「ナルトはまだハロウィンの準備をしとらんでのォ。
 ワシが準備してやるから、うちはの小僧はそこで待っとれぃ!!」
「えっ……エロ仙人!?ちょっ……」

そう言うと庭にサスケを残したまま、自来也はそそくさと
ナルトを連れて奥の部屋に入り、襖を閉めてしまう。







「―さてナルト。ハロウィンは仮装してナンボの行事じゃ。
 コレを利用すれば、お前も人目を気にする事なく楽しめるぞ」
「ホントかってば!?」

ぱあっと顔を輝かせるナルトに、うんうんと頷き返してやりながら、
顎に手を当てて何やら考え込んでいる。

「要はナルトだと他人にわからなければイイんだからのォ。
 ……何かしたいカッコなんぞあるか?」
「……ってそんな急に言われても思い浮かぶワケねってばよ」
「それもそうじゃな。そんでわ、ワシの好みでやらせてもらおうかのォ」
「ふえ?」

そう言うと、自来也が素早く印を結び始め、ナルトの頭にポンと手を触れる。
ボン、という音とともに煙が上がり、中からは可愛いらしい少女が現れる。

「お前の『お色気の術』と似とるが、あれでは大人過ぎるからのォ。
 元の年齢のまま性別を変えてみたんじゃが、どうかの?」

そう言って差し出された鏡の中には、月のように淡い金色の長い髪を揺らし、
天使の羽根を生やした、空色のワンピースを着た少女が映っていた。

「うへぇあ……スゲッてばよ……」
「性別を変え、頬のキズも消して、ちーと雰囲気も変えとるから、
 まずバレる事はないのォ」

感心の声しか出ないナルトに、満足そうに笑う自来也。

「そうそう、それからな、ナルト……」

何やら耳元でボソボソと伝えると、途端にナルトが赤面するが、
コクコクと納得したように頷きを返す。

「そんじゃ、行って来いのォ!!」

トン、と背中を押され、ナルトはサスケの待つ庭に向かった。


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