空が茜色に染まる頃――


草薙邸へ向かうため、息を切らし道を急いでいる途中、
真吾は偶然にも浜辺から戻って来た京に出会う事が出来た。
話があると屋敷に行こうとする真吾に、京は公園の方が近いと提案し、
真吾の休憩を兼ねてそちらへ向かう。



ベンチに腰掛け、自動販売機で買ったコーヒー缶を飲みながら、
相手が一息ついたのを見計らって京が声を掛ける。

「それで?何だよ、話って」
「えっと………」

落ち着かない様子の真吾に疑問を抱きつつ、怪訝そうに見て来る京の顔は、
明るく振る舞ってはいるが数日前よりもやつれているように見える。
心配そうに見つめ返しながら、意を決し拳を握る。


「あのっ……俺、少しでも草薙さんに元気になって欲しいんです!
 だから…八神さんの代わり………って言うのも図々しいんですけど、
 八神さんが戻ってくるまでの間、俺を恋人だと思ってくれませんか?」


精一杯気持ちを込めて行ったものの、やはり本人の目を見て言う事は出来なくて。
最後の辺りはギュッと目を閉じてしまい、今も開ける事が出来ないでいる。



……しかし待っていても京からの返事が無い。

呆れて帰ってしまったのかと思い、そっと目を開けると
そこにはちゃんと京の姿があってホッと安心したものの、黙ったままだ。
どう返答すべきか迷っているのかと思い、声を掛けようと手を伸ばすが、
そこで京の雰囲気が先程までとガラリと変わっている事に気付く。
見慣れている筈の顔が、今では見ていると背筋を冷たい汗が流れて行くような、
そんな恐怖感さえ覚え、知らない人を見ているような気分に陥って来る。


「あの……」

恐る恐るといった様子で声を掛けると、突然京がクスクスと笑い出した。





「クッ……クククク………俺の弱みにつけこんで、誘惑しようってのか?」





「……草薙…さん?」

嘲笑するようでいて氷のように冷たい口調に、顔が青ざめて行くのを感じる。
真吾を見る目が、いつもの呆れ返ったようなものではなく、
まるで敵を見るように鋭く、獲物をみつけたかのように異様にギラついている。



「俺と対等に渡りあえもしねェヘナチョコなガキのクセに偉そうな口ききやがって。
 …そうだな…俺と勝負して勝てば、考えてやらない事もないぜ」



「……………………」


普段とはまるで違う、見下しあざ笑う様子に戸惑いを隠せずにいると、
返事をしない様子にイラ立ち、さらに邪悪な表情を浮かべた京が、
ジャリ、と足を開いて腰を据え、戦闘の構えを取る。

「そっちが来ないなら……こっちから行かせてもらう!」












その手に燃える焔は――――闇を示す『蒼』に彩られていた。


















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