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「本当に戻る気はないのですか?」 「くどい」 失った記憶を回復させた事を伝え、何とか京の許へ戻らせようと、 神楽は懸命に説得を続けるも、庵にその声は届かない。 困ったような表情を浮かべながら、神楽は深い溜息を洩らす。 「どうしてそんなに草薙から離れたがるのですか?今まであんなに一緒だったのに…」 「………………………」 紫煙を燻らせるばかりで相手からの返事は無い。 業を煮やした神楽は、言うまいと思っていた言葉を唇に乗せる。 「貴方…草薙を闇に染めてしまうのではないかと恐れているのではないですか? 今の幸せを、草薙を壊してしまいそうで恐いのでしょう?」 「黙れ」 庵の目が、これ以上喋る事を許さないと警告を発する。 しかし、その行動で神楽の推測が間違いではなかったのだと確信する。 「わかっているなら――――――― ………………… !」 ならば何故、と問い続けようとしたところで、2人の表情がサッと変わる。 庵はただならぬ血のざわめきを、神楽は言い知れぬ恐怖を感じ、 互いに顔を見合わせそれが勘違いから来るものではないと知る。 「今の気配は……草薙? だけど……」 困惑を隠せない表情で、感じた気配を探ろうと集中する神楽の傍らで、 庵がギリリと歯を食いしばり、その方向を睨む。 「……バカが……心の隙をオロチにつけ込まれたな」 「!?」 衝撃の言葉に、神楽は驚愕の表情のまま、庵の横顔を見る。 その顔は、悲しみにも似た後悔の色が濃く現れていた。 それを見て、キッと唇を結んだ神楽は庵に更に近付く。 「草薙は…少なくとも今まで……それこそ、オロチにつけ込まれるような 心の弱い人間ではありませんでしたよ。 貴方と共にいて、彼は闇に染まりましたか?壊れてしまいましたか? むしろ離れた事でこのような事態を引き起こすとは考えなかったのですか!?」 泣きそうな程悲痛に歪む神楽の表情を見て、それでも関係がないと言うように 頑な様子を崩さない庵に、有無を言わさぬ勢いでその腕を掴み、 無理矢理部屋から連れ出そうとする。 「封ずるもの【八坂瓊】の者としても、【八神庵】という一個人としても、 今の草薙を救う事が出来るのは………貴方だけです。 …………それがわからない貴方ではないでしょう!?」 抵抗を見せる相手を睨み、そう叫ぶと相手も抗う事をやめる。 促されるまま神楽と共に車に乗り込むと、急ぎ目的地へと向かう。 庵と京の血は引き合うらしく、特に庵からは京の位置を正確に把握する事が出来る。 しかも今の京にはオロチが何らかの形で関係している。 神楽にとって余程集中しなければ探し出せないものでも、 自分の中に流れるものと同じ存在……ましてやをの京の気配を探るなど、 庵にとってさほど大変な事ではなかった。 2人が公園へ辿り着き、京の許へ駆けつけると、 目の前に真吾が技のあおりを受けて、吹き飛ばされて来た。 「矢吹君!」 慌てて神楽が駆け寄り、気絶しているらしい真吾の傷の具合を確かめる。 軽い火傷を負っているようだが、命に別状はないようだ。 何度か呼びかけると、ゆっくりと目を開け、神楽を見る。 「ちづるさん……く、草薙さんが……」 「ええ…わかっています。草薙は……オロチの誘惑に屈してしまったようね」 手当を受けながら、痛みに耐えつつ京の事を伝えようとする真吾に、 神楽は冷静に事実を述べる。驚愕に目を見開くと、みるみる顔が歪んで行く。 「………そんな……っ!」 |