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ピクリと体が揺れ、意識が浮上して行く。 ゆっくりと目を開けた世界は先程までと同じ、薄暗い闇の中だった。 自分がいる場所がどこなのか判断がつかず、 目が闇に慣れるまでしばらくその場を動かずに、何度か瞬きを繰り返す。 次第に物の輪郭がハッキリし、周囲を見回すと、見慣れた場所だと気付く。 「あれ……ココ……」 「こちらの方が落ち着いて話が出来ると思ってな。俺達のマンションへ連れて来た」 窓辺で京が目覚めるのを待っていたらしい庵が、こちらに顔を向ける。 月明かりに照らされてぼんやりと輝く姿は、幻のようにも見える。 驚いているのか、声も無く目を見開いたまま硬直する京に、 庵は苦笑しつつ近寄り、ふわりとその体を胸の中に収める。 先程まではオロチを祓うのに必死で気付かなかったが…… 今腕の中にいる体は記憶にあるよりも随分とやせ細っているように思う。 「お前を捨てるようなまねをして…………―――――― 悲しく辛い想いをさせてしまったようだな………すまなかった」 謝罪の言葉と共に強く抱き締めると、ようやく京が反応を見せ、 その背に腕を回して抱き返して来る。 「もう…夢とか幻とかじゃねェよな……本物なんだよな……!」 「……ああ」 「………………ッ!!」 返って来た優しい響きを持つ答えに、わき上がる想いを抑えきれず、 庵の肩口に顔を埋め、少しの隙間さえも惜しむようにキツくしがみつく。 「あんなメモ残して消えやがって……ッ……… 色々言いたい事いっぱいあったのに…忘れちまったじゃねェか…バカ野郎!」 「――すまない……」 久しく聞く声はあたたかく、京と庵の心の中へ染み込んで行く。 抱き締める感触に鼓動が高鳴り、離したくないと強く願う想いと、 こみ上げる愛しさが有る。自分はこんなにも京の事が好きだったのかと 離れてみてようやく気付かされた。 「逢いたかった…」 精一杯の愛しさを込めてそう囁くと、潤む瞳とぶつかる。 「俺だって…俺の方がもっと逢いたかった。 目が覚めたら、お前がいなくなってて……凄く恐くなって―――」 「そのせいでオロチの誘いを拒めなかったのだな」 「……うん」 その時を思い出したのか、抱き締める腕を更に強めしがみついてくる。 それに庵は申し訳なさそうに、俯く京の頭を胸元に押し当てる。 「お前が悪いのではない、全ては俺のせいだ」 宥めるように撫でた頭が、突然起き上がり、こちらを睨んで来る。 「ホントだよ。どうせまたお前『俺に闇の道を歩いて欲しくない』とか そういう理由でいなくなったんだろうけどさ。 離れてった方がヤバかったっての!」 「…………………………」 言いたかった事を思い出したらしく、怒りを露にまくしたてる京に、 庵は耳が痛いと思いつつ、困ったような表情を浮かべる。 「ホントはさ。戻って来たら一発ブン殴ってやろうと思ってたんだけどな…… 俺がそれどころじゃなくなってたし。迷惑度的には一緒かもな。 …それに、助けてくれたから、それでイイよ」 照れ臭そうに、はにかんだ微笑みを見せる京を眩しそうに目を細めて見ながら、 それを愛おしむように額に、瞼に、鼻にと段々と位置を下げつつ 口付けの雨を降らせて行く。 最後にくすぐったそうに笑う唇に軽く触れると、何故か不満げに睨む瞳が見上げて来た。 「? 何だ」 その視線の意味を重々承知しているものの、敢えて京の口から言わせたくて、 庵は気付かぬフリをして尋ねる。 「…………そんだけかよ」 目を合わせられずに顔を背けながら、恥ずかしそうに言い、 袖を引っ張って続きを要求するも、何も返事がない事に焦れた京は 「あ〜もう!」と叫んで庵を引き寄せると、唇を重ねる。 「ようやく逢えたんだから……ちゃんとしろよ」 「――止まらんぞ」 イタズラが成功したかのように笑う相手にニヤリと笑いを返すと、 再び重ね、角度を変えつつ何度もその唇を味わう。 舌を絡め合い、どちらのものかもわからぬ唾液が口の端から伝う頃には、 京はクタリと力なくその身をベッドに預けていた。 |