見慣れない部屋の見慣れないソファーに座り、
隣にいる『誰か』と楽しげに会話する『自分』
相手の顔は見えているハズなのに、誰だかわからない。
見た途端に忘れていくような感覚だ。
相手の声も聞こえないが、自分はそれを理解して返事をしている。

『ああ……これは……夢なんだ』

そこでようやく、京は自分が今夢の中にいるのだと気付く。

夢だと自覚してしまえば、冷静に物事を捕らえる事が出来て、
この夢は自分が失っている記憶と何かしら関連があるのだと推測できた。
そして、今隣にいる相手がそれらの鍵を握っているらしい。
自らの意志で声が出せれば。
そう思いながら、意識を喉に集中させる。


「――――……なぁ」


どうにか集中すれば声は出せるようで、
相手がその呼び掛けに応えて、こちらを見ている感覚がする。

「教えてくれよ。アンタは…一体誰なんだ?」
必死に集中して絞り出した声で尋ねる。
もしかしたら…もっと意識すれば、顔も声もわかるかもしれない。
そう考えて相手に神経を集中させる。


―と、相手が悲しそうに微笑む感覚がして、その手がそっと持ち上げられ、
優しく京の頬を撫でると、ソファーから立ち上がってどこかへ行こうとする。
「まっ…待てよ、教えてくれ!誰なんだ!アンタは誰なんだよ!!」
必死に後を追い掛けるのに、一向に相手に追いつけない。
何とか引き止めようと力の限り腕を伸ばして、その腕を掴もうと足掻く。
するとそれに気付いてか、相手が立ち止まり、その腕を京が捕まえたところで、振り返る。


その髪は赤く、瞳は金に輝いていて―――――











「     !!」









カッと目が見開いたと同時に飛び起きる。
周囲を見回すと、そこは見慣れた自分の部屋で。
まだ混乱のみられる頭で、現実に戻って来たのだと理解する。


誰かの名を呼んだハズなのに………思い出せない。
『掴んだ腕の感触はあるのになぁ……』
じっと己の手を見る。
その腕の温度も、感触までも覚えているのに、何故顔だけがわからないのだろうか。

そんな事を考えていると、蒲団にパタリと何かが落ちる。
見るとそれは水滴で、雨かと窓を見るが、
外は綺麗な三日月が夜空に浮かんでいて。

…またひとつ、今度は掌にそれが零れ、
ようやく自分が泣いているのだと気付く。



「何で………ッ」


悲しくはないハズなのに、止まる事なく、むしろ後から後から溢れ出して来る。
次第に嗚咽が洩れ始め、「何で」と繰り返しながら、激しい感情の本流にその身を委ねていく。




それを見守るように、月はただ優しくその姿を照らしていた――





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