翌日。
京は執事の庵を伴って出掛ける用事があったのだが、
庵が休みを取る日と重なってしまった為、引き継いだ舞を代理に出掛け、
今はその出先から戻る途中である。

京はいつも遠出をする際は、その土地の土産を使用人達に買って帰り、
彼等彼女等の喜ぶ顔を見るのを楽しみとしている。
また、その際に何を買おうかと考えたり商品を見るのが好きなので、
いつの間にやら恒例の儀式のようになってしまった。

舞と共に何を買おうかと話しながら、ウキウキした様子で街中を物色していると、
ピンクで可愛らしい外観に、美味しそうな焼き菓子がズラリと並べられた店にさしかかる。

「あたしはココがイイと思うな〜、メイド達へはココにしましょうよ」
「うえェッココ!? 俺が入るのは場違いで嫌だし……舞が買って来てくれよ〜」
「はいは〜い、任せておいて〜♪」

嬉しそうに舞が入って行くのを見送り、店先でそれを待ちつつボンヤリと通りを眺めていると、
向かいの通りを庵が歩いて行くのをみつける。

「お……!!」

声を掛けようとするが、その隣に金髪の美しい女性がいるのを発見し、思わず言葉を失ってしまう。
普段自分の前で見せるような、無表情に近いあの顔ではなく、幾分和らいだ様子で、
横に居る女性に何やら話掛けて楽しそうにしている。
ドクドクと鼓動がうるさく高鳴っているのに、血の気が一気に下がって行くような、
胸がキリキリと痛いような気がして、店の壁に背を預けながらギュッと胸元を掴む。

「……どうかしたの?」

チリリン、と扉が開く音がして、店の中から舞が荷物を抱えて出て来て、
どこか様子がおかしい京を、心配そうにみつめている。

「いや、何も」

庵が消えて行った方角をみつめながら、2人は馬車に乗り込む。




邸宅へ向かう道をガタガタと揺られながら進む中、京は窓の外をみつめながら、
はぁ、と何度も溜息を洩らしている。

「何か悩み事?」
「……ん、ん?」
「珍しくボンヤリしてるから」

幼い頃から一緒に育って来た舞にはわかるらしい変化を見透かされて、
照れ臭い気分の京は、そうかな、と誤魔化すように微笑む。

「何か恋してる男の顔してるから…何かあったのかなって」
「恋…してる顔?」

キョトンとする京に、普段は妹のように感じる舞の微笑みは、母のように見えて。
何だかこそばゆい感覚におそわれる。

「うん、色気のある顔しててカッコイイ」
「……ありがと」

ニッコリと微笑みながらそう言われて、頬が思わず赤くなった。




















帰宅するやいなや、使用人達への挨拶もそこそこに自室へこもり、
ベッドへとダイブしてうつぶせの姿勢のまま枕に顔を埋める。

「そっか…俺、八神が好きなんだ………」

舞の言葉と、先程の衝撃を思い出して導き出した答え。
思わずポツリと呟きがもれる。


「ーーーーってえぇえぇぇぇ!!!???」


改めて自分の言動に驚いて、ガバリと勢い良く起き上がる。
徐々に顔が紅潮していくのがわかり、更には耳や首にまで熱が広がって行く。

「うわ〜〜〜…うわ〜〜〜ッッ!!! 何で自覚なんてしてんだよ俺ー!!!
 アイツが1番側にいんのに、どんな顔してりゃイイんだよ〜〜〜〜」










「ーで、逃げてきたワケか」
「……………………………」

二階堂邸。
呆れ果てる紅丸の向かいには、恥ずかしそうに俯きながら、
意味もなくミルクティをかき混ぜては飲むという行動を、ひたすら繰り返している京の姿があった。

「し〜っかし、まさかアイツのフェロモンにお前がやられちまうとはね〜」

紅茶を含んだジャストタイミングで言われた言葉に、ゴフッと噴き出しそうなのを堪えたせいで、
飲み込んだ紅茶が気管に入ってしまい、苦しそうに咳き込む。

「ヤバイかもな〜とは思ってたけど、的中するとは思わなかったぜ」
「……………………」
「ーで、逃げて来たワケか」

半ば確信犯的発言をしつつ、ニヤニヤと口元にいやらしい笑いを浮かべながら紅茶をすする紅丸に、
再び同じセリフを言われても、不満をあらわにした顔でジロリと睨むしかない。

「だって……気付いたらアイツの顔ジロジロ見ちまってるし!視線合ったら思わず逸らしちまうし!!
 八神には困った顔これちまうし!!!どうしようもねェじゃんか〜〜〜!!!!」

耳まで赤くしながら、身悶えるように頭を抱えて叫ぶ京をよそに、相手は
『そりゃ〜好きなヤツにそんだけ凝視されれば誰だって困るわな〜』などと考えている。
確かにミャクはありそうだな〜と考えていたものの、こんなに大幅に好転するとは、
紅丸にも予想外な展開だった。
しかしそれはおくびにも出さず、内面では面白くて仕方ないものの、
表面的には冷静さを装って、静かに紅茶をズルズルとすする。

「そんな悩むんなら言っちまえば?」
「絶対変な目で見られるに決まってるじゃねェかよ!!一緒に仕事してんのに気まずいじゃん!!」
「でもお前がそんなに熱視線送っても、特に嫌そうじゃねェんなら大丈夫なんじゃね?」
「そうかなぁ……」

先程までの興奮が嘘のように、しゅんと落ち込んでしまった京のカップに紅茶を足してやりながら、
安心させるように柔らかな微笑みを浮かべる。

「明後日はお前の誕生日なんだし、思い切って言ってみろ」
「う……うん」

気弱そうに答えながら、ズビズビと音を立てて紅茶をすする。


























誕生日を明日に控え、庵は他の使用人達から集めた金を元手に、京へのプレゼントを購入すべく、
新年へ向けての準備で賑わう街中へと出掛けていた。
そこで、同じ用向きで来ているらしい紅丸と遭遇する。

「よっ、お前も京のプレゼントを買いに?」
「使用人を代表してな」

と、金の入った袋をジャラリと音をさせてみせる。
それに「ふぅ〜ん」と何やら思わせぶりな返事をしてくるので、何だと視線だけで庵が問う。

「大チャンスなんだし、告白してみれば?」
「またそれか」

ウンザリといった表情で答える庵に、さすがの紅丸もムッとする。

「んじゃあこのまま言わずにズルズルいくワケか?ヘタレだね〜お前」
「……………」

挑発的な言い方に、庵の方も眉を潜め、2人の間に不穏な空気が流れ始める。
だが紅丸の方は長続きさせるつもりはなかったようで、アッサリと引き下がる。

「潔く言ってスパーッと玉砕してこい。骨は拾ってやる」
「……応援してるのか破滅させたいのかどっちだ」
「どっちも?あえて言うなら……楽しんでるかな」
「……ハッ、くだらん」

そう言って離れて行く庵の背を、ヒラヒラ手を振って見送る。

「まあ悪いようにはなんねェから、頑張りな、2人とも」







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